第3話 いざ領主の屋敷へ

 「おーい、食べ終わったか?」


 俺はギルバードと三十分ほど町をぶらぶらとしてきて、またアリシアのいる宿に戻ってきた。


 「あと少しで食べ終わりそうなので、ちょっと待っていてください!」


 がつがつ!


 アリシアはそう言ったあと、豪快な咀嚼音が聞こえてくる。


 宿の食堂を覗いてみると、アリシアのテーブルに何枚もの大皿が積まれていた。


 (おかしい)


 アリシアの食欲の異常さが改めて実感できた瞬間だった。


 

  ......それから数分後。


 「いやー、美味しかったです!ごちそうさまでした!」


 「ありがとうございました!」


 宿の少女がアリシアに対してお礼を言う。もう宿じゃなくて食堂と化しているような気がするんだが......


 「やっと食い終わったか?そろそろ行くぞ、ギルマスとの約束の時間まであと少しだ」


 「ギルドに行くんでしたっけ?」


 「ああ、そうだ」


 「えっ、そうだったのか?」


 ギルバードの奴、昨日一体何を聞いていたんだか......


 「ま、まあともかく、ギルドへ向かうぞ」


 「はい!」


 「おお!」


 

 ◇◇◇◇◇◇



 ギルドに着いた。


 「ようやく来ましたか、約束の時間よりも三分遅れましたね」


 この嫌味を言ってきている神経質な50くらいの爺さんが、ここの冒険者ギルドのギルマスだ。


 このギルマス、もともとはAランクパーティーの魔法使いだったらしく、実力は本物だ。実際にここのギルドでは、B・Aランクへの昇格試験ではこのギルマスが試験官をしている。


 そもそもギルマスというのは、実力のある冒険者の中から、歳や怪我のせいで冒険者業を引退せざるを得ない者がなるものだ。


 さらにその中でも、ギルドを管理する能力が必要となるため、頭がいい奴がギルマスとなるのだという。


 「さて、早速領主様のお屋敷へ行きましょうか」


 そうしてギルマスは歩き出した。



 ......道中。


 「では、領主様のお屋敷に向かう間に、領主様、アルベルト・シルフォード様とそのご令嬢、サーラ・シルフォード様について、私が知っていることを話しましょう」


 「ん?アル......フォード?ちょっと待て、うまく聞き取れなかったんだが」


 人名に貴族特有の家名(苗字)が加わるだけでヒアリングが雑になるギルバード。


 「ギルマス、ギルバードのことはとりあえず放っておいてくれ」


 「わかりました」


 「え?え?」


 すでに話に追いつけていないギルバードのことは忘れて、ギルマスは話を続ける。


 「まずはここの領主様、アルベルト様についてです。アルベルト様は武勇に秀でたお方で、魔法使いの私とは基本的に私とは話が合いません」


 いきなり自分目線での領主様へのマイナスポイントを話すギルマス。


 「ですが、平民にも分け隔てなく接することのできる懐の広いお方でもあります」


 一番気になっていた平民への態度、それはアルベルト様は良いらしい。


 「しかし、アルベルト様のご令嬢、サーラ様が絡むと話は別です。あのおやば...ごほん、アルベルト様は娘のサーラ様のことを溺愛しており、サーラ様のためならなんだってするようなお方なのです」


 ギルマス、今領主様のことを親ばかって言いそうになっていたんだが。


 「でも、そんなにサーラ様のことを大事に思っているのに、どうしてアルベルト様はサーラ様に冒険者ごっこをさせることを認めたんでしょうか?」


 「確かに、大事な娘にそんな危険なことをさせないとは思うんだが......」


 俺とアリシアが疑問を口にすると、ギルマスが少々面倒くさそうに答える。


 「はあ、そのサーラ様が必死に頼み込んだからですよ、冒険者になりたいって。アルベルト様はサーラ様には甘いですからね」


 「どうしてそんなことを頼んだんだ?」


 俺が続けて尋ねると、ギルマスはさらに面倒くさそうな顔をして、答える。


 「あー、サーラ様は昔冒険者に助けられたそうで、それがきっかけで冒険者に憧れを抱いていると、本人から聞きましたね」


 「そうだったのか」


 「ちなみに、そのサーラ様は魔法を得意としており、私が見たところ単独でBランク相当の実力の持ち主でしたよ」


 「単独でBランク!?すごいな!」


 どこがすごいのか、それは、での評価がBランクということだ。


 俺たちのパーティー、『ドラゴンバスターズ』もBランクなのだが、それはパーティー全体での評価で、俺たち一人一人ではよくてC+程度の評価だろう。


 「ん?俺たちもBランクだろ?どこがすごいんだ?」


 「......」


 ここにランク付けの仕組みを理解できていない奴がいたんだが。


 俺たち三人は呆れたような目でギルバードを見る。


 「ギルバードは置いておいて、私が知っていることはこれくらいですかね。どうでしたか、何か参考になりましたかね」


 「ああ、領主様が平民を見下したりしないと分かっただけで、少しだけ安心した」


 「絶対に上手く進めてくださいね、私の信用にも大きく関わるので」


 至極真面目な顔をして自分のことしか考えていないような発言をするギルマス。


 そういうのは言葉に出さず自分の心の中だけで言った方がいいと思うのだが。



 「......着きましたよ」


 領主様のお屋敷に着いた。確かに大きく立派な屋敷だが、想像ほど豪華絢爛な感じではなく、どちらかというと機能性を重視したような造りになっている。


 基本は石でできており、どこか力強い印象を受ける建物だ。


 「とまれ」


 門に近づくと、門番らしき人物に止められた。


 「これを見てください」


 ギルマスが何やら一枚の丸められた紙を懐から出して、門番に渡す。


 「......これは!失礼いたしました、アルベルト様のご客人でしたか。どうぞ、お入りください」


 そうして、俺たちは屋敷に足を踏み入れた。

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