第5話 打ち上げ

 領主の屋敷を後にするギーク他三名。


 「あー、緊張した」


 「本当ですよ、まさかギルバードが領主様に対してあんな態度をとるなんて」


 「ん、俺なんかまずいことしてたか?」


 「「「......」」」


 ギルバードの言動に呆れて言葉を失う三名。


 「彼の頭はもう手遅れなのでしょうか?」


 「そうですね」


 「ああ、そうだな」


 「え、え、どういうことだ?」


 周りが何を言っているのか理解できないギルバード。


 「とりあえず、私はギルドに戻ります。たまっている仕事があるので」


 「そうか、今日はありがとうな」


 「いえいえ、こちらこそ。面倒な依頼を受けていただきありがとうございました」


 「ギルバードが勝手に受けただけなんだけどな」


 というか、ほとんどはギルバードの言葉だけで『ドラゴンバスターズ』が依頼を受けると決定したギルマスのせいなんだが。


 俺は責めるような目でギルマスのことを見る。


 「さて、そろそろ解散しましょうか」


 誤魔化しやがった。


 「さあ、私たちはどうしましょうかね?」


 わくわくとした様子で俺のことを見るアリシア。その目的は......


 「そうだな、パーっと食うか?今日くらいは俺がおごってやるぞ」


 「本当ですか!本当に良いんですか!」


 「太っ腹だな!俺も酒飲んでもいいか?」


 「おお、良いぞ」


 まあ、今回の依頼で報酬はかなり入るから、大丈夫だろう。



 ◇◇◇◇◇◇



 ......なんて甘く考えていた二時間前の俺を思いっきり殴りたい。


 「オーク肉のステーキとキングサーモンの塩焼き二つずつ!あと、ジャイアントディアシチュー二つと白パンを四つお願いします!」


 「俺もエールおかわり!」


 「......」


 ギルバードはまだいい。かなりの量の酒を飲んでいるがまだ許容範囲だ。


 問題はアリシアだ。もうすでにテーブルには何枚もの皿が高く積まれており、相当の量食っている。


一時間前からこのペースで食い続けている。


 ......一体いくらするのだろうか。恐ろしい。


 

 約三十分後。


 「いやー、食べた食べた。もうこれ以上は食べられません!」


 「「......」」


 テーブルには数十枚の皿が積み上げられていた。


 アリシアのあまりの暴食具合に俺とギルバードは言葉が出ない。


 「じゃあ、ギーク!あとはよろしくお願いしますね!」


 「お、おう......」


 俺は会計をするために酒場の店員に声をかける。


 「お会計の方は、金貨九枚になります!少しサービスさせていただきますね!」


 「......わかった」


 そうして俺は店員に金貨を九枚を渡す。念のために金貨十枚と多めに持ってきていたのだが、かなりぎりぎりだった。


 「じゃあ、明日から依頼が始まるのでもう宿に戻りましょうか」


 予想以上の出費で落ち込んでいる俺の心境を察さず、アリシアは俺と普段の会話をしようとする。


 「ヒック、そうだな。もう寝るか」


 ギルバードはかなり酔っているようだ。


 「寝るって、まだ四の鐘(五時)ですよ?早すぎないですか?」


 「ヒック、いや、俺はもう眠いから、寝る、ヒック」


 ギルバードはおぼつかない足取りで酒場を後にした。


 「では、私もこれで失礼します。今日はどうもありがとうございました!」


 「ああ......」


 そうして、アリシアも楽しそうな様子で酒場を後にする。


 一人になった俺は、以前よりも随分軽くなった革袋(財布)を懐に入れ、一人寂しく宿へと戻っていった。



 ◇◇◇◇◇◇



 翌日。


 今日俺たちはサーラ様とギルドで待ち合わせをしているため、ギルバードとアリシアとともに俺はギルドへ向かっている。


 「うう、頭が痛い......」


 「昨日あんなに飲むから...大丈夫か?」


 「大丈夫...だ」


 ギルバードは二日酔いのようだ。今日の依頼、大丈夫だろうか?


 「私も昨日は食べすぎました......今日の朝はいつもの量の半分しか食べられませんでしたし」


 食べたのかよ。


 「ほら、気持ちを切り替えて、ギルドに着いたぞ」


 そうして俺たちはギルドの中に入っていく。


 「あっ、来ましたか」


 ギルマスがギルドの入り口あたりで待っていた。


 「サーラ様はすでに私の部屋で待っておられます。早く行きましょう」


 「おう」


 俺たギルドの左側にある階段を上り、さらにその奥にあるギルマスの部屋へと向かう。


 「失礼します」


 ギルマスがノックをしてそっと扉を開くと、ソファに腰かけているサーラ様がこちらの方を向く。今日は昨日のお嬢様らしい服装ではなく、動きやすそうな地味な服で来ている。


 「ああ、こんにちはー。今日はよろしくお願いしますねー」


 昨日見た時よりも軽い感じで挨拶をするサーラ様。


 というか、軽いというより、なんかふわふわぽわぽわしているような......


 「はい、よろしくお願いします」


 「よろしくな!」


 「よろしくお願いしますね」


 各々サーラ様に挨拶を返す。


 「では、私はこれで失礼しますね。今日の内容などは皆様で話し合ってください」


 そうして、ギルマスは一人部屋を出ていった。


 「さて、サーラ様、今日はどのようなことをしましょうか?希望があれば言ってみてください」


 「そうですね......」


 顎に手を当て考えるそぶりをするサーラ様。少しすると、決まったのか顔を上げる。


 「私、ゴブリン討伐がしてみたいです!」


 「ゴブリン討伐、ですか?」


 「はい!自分の中では冒険者の最初の関門と考えていたので!」


 さっきのふわふわした様子から一変、興奮したようにテーブルから乗り出して熱弁するサーラ様。


 ゴブリン討伐か、最初の相手としてはちょうどいいかもな。


 「では、ゴブリン討伐にしましょうか」


 「はい!」


 「お前らもそれでいいな?」


 「ああ、いいぞ」


 「わかりました」


 そうして、俺たちはゴブリンを探すべく近くにある森へ入ることになった。




―————————————————————

 この世界でのお金の価値について


 ・銭貨:十円


 ・銅貨:百円


 ・銀貨:千円


 ・金貨:一万円


 ・大金貨:十万円


 ・白金貨:百万円


 物価なども日本とこの世界とでは全然違うので、あくまで目安として考えてください。

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