第3話 VTuber――さちは配信を再開する

 近所のスーパーで小幸こゆきをみつけた俺は、小幸こゆきにみつからないよう立ち振る舞う。

 友達なら声をかけるのが普通なのかもしれないが、中学から友達がいない俺はその距離感がわからない。


 小幸こゆきが店の外に出るのを確認してから、俺は弁当を購入し店を後にした。

 こんなんだからいつまで経っても1人暮らしを始めた目的――彼女を作っていちゃいちゃライフ――を果たせずにいるんだろうな。


 ♡


 家に帰り弁当を食べてからしばらくすると、さちの配信が始まった。


『みんな、久しぶりぃ〜。来てくれてありがとう』


 約1週間ぶりのはずなのに、そう感じないのは、小幸こゆきとさちの声が似ているからだろう。

 キャラ性が違うのに不思議だ。


『やっと、引っ越しと、転校が落ち着いたので配信することにしました。これから毎日配信するのでよろしくね。今日は久々なので。おしゃべりをメインに、スイカを作るゲームをしていきたいと思います』


 スイカを作るゲームとは、2つの同じ果物がぶつかると一段階大きい1つの果物に変わるゲームのことだろう。

 一番大きいのがスイカであることからそう呼ばれている。

 ちなみに、スイカ同士がぶつかると消える。

 スコアをどれだけ伸ばせるかというゲームだ。


 ゲーム画面が開き、端にはさちのアバターがいる。

 パソコンにはさちがゲームを進める画面が映っている。そして、そのすぐ横でワイヤレスキーボードとスマホで俺は執筆する。


 ながら作業は効率が悪いことは知ってるし、だいたいどちらかに集中してしまうのだが、中学1年から今まで、このやり方をしている。


『『新しい学校どう?』新しい学校はいい感じです。というのも、友達ができました』


『おめでとう』とコメントを残す。

 他の人は『俺が友達になりたい』とか『学生うらやま』等々。


 転校した理由を訊こうと思っていたのを思い出した。訊いてみよう。


『『どうして転校したの?』興味があったから。だいたい3年間同じ学校に通うじゃん。ふと、他の学校はどんなかなと思って』

『『変なの』変かな?』

『『変だよ』そんな断定する? 考え方は人それぞれでしょ』

『『転校してよかった?』まだわかんない。けど、よかったって思いたい』


 つつがなく配信は終わりを迎え、俺は就寝した。


 ♡


 朝になり、朝食や身支度などを済ませる。

 今日も学校だ。

 一人暮らしを始めて1年経った今となっては


『かわいい女の子と部屋が隣でひょんなことから仲良くなる』なんてのは妄想であり、現実ではそうそうありえないと身を持って知った。


 そもそも隣に暮らしている人と会うことがない。

 引っ越しの挨拶を口実に訪問することを考えたことはあったが、俺にそんな度胸はない。

 そうこうしているうちに隣は引っ越していたようだ。


 なぜ、ただのお隣さんである俺にそれがわかるのかというと、今現在の隣の部屋には小幸こゆきが住んでいるからだ。


 目的地が同じ学校であるがゆえか、家を出る時間がほぼ同時だった。

 外に出た瞬間にバッタリと遭遇した。


大知たいち?」

小幸こゆき?」

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