第15話 世界の真実

▱▱▱


「シャレたトコに来たな。休暇にピッタリだ」

「んっ……そうですね」


 近場のキュラリーという都に着くなり、セラートが水路の方へと顔を近付け、覗き込む。


「どした?」

「あ……その。何か音が響いてきているように思いまして」

「んー? 勘違いだよきっと。それより休暇を楽しもうじゃんか」


 格闘家を倒し、オレたちは勇者から一週間の休みを貰った。

 休みを楽しみたくはあるが、遊んでる時間はない。

 こうしてる間にも獣人は殺されている。

 勇者への怒りが、胸の中でざわめく。

 とにかく武器を探さなくては。

 オレの場合、槍をブンブン振ってれば強くなれるはず。

 古城にあったとは思うが、ここで手に入るならそれでもいい。

 戻って探すの面倒だし……。

 なんなら棒の先にナイフとか付けて振っても強くなるし、槍を売ってるとこがないならなんか適当にハサミと棒と、ビニール紐でも買えばいいか。

 勇者から貰ったこのクレカでな。


「シヘタくん。休暇は楽しんでいるかい?」

「うおっ、勇者! いきなり出てくんな!」


 勇者は建物の四角屋根で座り、足をプラプラさせている。


「それはムリ。んで、用件なんだけど」

「なんだよ」

「セラートちゃん、ちょっと来てくんない? キミにはちょっと話したいことがある」


 セラートは弓使いの後ろに隠れる。

 かわいい……じゃなくて、やっぱ勇者のことは苦手か。

 オレも倒すべき相手がこんな態度じゃやりづれー。


「そこまで行けねーし。重罪人の始末じゃねーんならどっか行けよ。それにオレらはいずれ、オマエの敵になるんだぜ? 勇者よォ」

「ダイジな話だから。遮るなよな」


 ポポンという音とともに、勇者はグイッと笑顔を近づけてくる。


「ウッ。じゃあオレらの前で話せよ、セラートだって嫌がってる」

「メンドッ、いいんだけどさ。シヘタくんには知られたくないコトなんだよな。だから」


 勇者の開いた手が目を覆い、そのまま掴まれてしまう。

 ……痛くはないが、がっしり掴まれてて引き剥がせない。


 ──パチン、と指を鳴らす音。

 強い耳鳴りがして、何も聞こえない。


「おい、離せって」


 何分ほど経つだろう、汗が滲む。

 勇者の手が頭にくっついたままでどうにもならない、サイアクな気分だ。

 パチン、と再び指が鳴り、勇者の手が頭から離れてようやく耳鳴りが止む。


「はいはい。今終わったから」

「……オレに何しやがったんだ、勇者」

「聴覚を魔法で遮断してた。キミもそこそこのレベルになればできるよ、頑張れ」


 勇者はボボンと消えた。

 できるようになっても使わねーよアホが。


「セラート。勇者から何を聞いたんだ?」

「その、勇者は敵ではない……みたいです」

「敵だろ。あの町を燃やしたのは勇者なんだぜ?」

「あれは、格闘家さんたちが売り物である獣人を誘拐して匿っていたからで。人間として、そうしなければならなかったんです」


 何を言っているんだ、この子は。

 訳分からん、どうして手のひら返したみたいに、勇者の味方をするんだ。


「それじゃあセラート、キミはこれからどうしたいんだ?」


 セラートは突然、近くの壁に手を付き──ガツガツと頭を叩き付け始めた。

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