19.ドキドキわくわくピクニック。美女と馬と時々俺5
「いただきます!」
俺は、手を合わせると早速弁当箱に手を伸ばした。
「どないしょ、どれから食べよう!?」
迷い箸ならぬ、迷い手をしてしまう。
おかずの骨付き肉からいこうか? 玉子焼きではないが、緑を散らしたオムレツのような物もあるぞ。嬉しい事に、タフタフもある! この丸いフライのミニ串は何だろう!?
いや、ここはやはりメインからいこう。
俺は、メインの箱からひときわ具材のたっぷり入った物を掴み取った。スライスされたバニに、刻み野菜のソース。何枚も重ねられた桃色の薄切り肉に、たっぷりした葉野菜。
両手でうやうやしく持ち、そのままかぶりつく。
シャキッとした歯ごたえの葉が、バニの柔らかな食感に勝り音を立てる。クリーミーで、少し酸味のあるソースの下から、肉の塩味と燻製の香りが顔を出す。何枚も重なっているお陰で、前歯で薄い肉を噛み切る歯触りが面白い。
具材が横から後ろから溢れ出るが、構うもんか! 片方の手でそれらを受け止め、バニの上に乗せ、更に大きな口を開けてまたかぶりつく。
「うんもい! ウモゥイ!」
次はおかずにいこう。
さっきから、謎の丸いミニ串が「ワタシの正体、気にならない? ね、食べてみてぇん」と誘っている。
食わぬは男の恥!
俺は串をつまみ上げると、色んな角度から観察してみた。
――そんなに見られたら、恥ずかしいわァん……――
――ふふ、大丈夫、よぉく見せてごらん。ボクにだけ教えておくれ、キミの正体を……――
思い切ってかじり取る!
うずらの卵ほどの大きさなので、てっきり同じく卵だろうと決めつけていたが……。これは、肉団子だ!
サクッと軽い衣を噛みほどくと同時に、ジュワリと濃い肉汁が口を満たす。とんでもないお色気美女が隠れていたもんだ。
「……そんなに美味しいの」
「オムゥ?」
ハーミラが、唐突に俺に問うてきた。こんなに手の込んだ美しい弁当が、美味しくないわけあるまい!
俺は、お色気美女という名の肉団子フライを丁寧に咀嚼し飲み下すと、大きく頷いた。
「めっっちゃ美味いで! これな、卵やと思てたら肉団子やねん! そんでな、こっちのサンドウィッチがな……」
黙って聞いてくれているが、ふと気が付いた。
「って、何で食べへんの? ……ですか?」
「……食事に……あまり興味が無い。活動するエネルギーになれば何でもいい」
「あー……」
たまにいる。仕方なく栄養を摂取している人。俺が見た中で一番すごかったのは、食事を全てサプリメントで済ませている人だ。何でも、「食べる時間がもったいないから」と言う理由だったな、とふと思い出した。
「あなたを見てると……。いつも楽しそうに食事をしてる。どれもこれも美味しそうに食べてる。気になった。だから、クエストを受けて、今こうやって観察している。だから食べない。続けて」
「か、観察……」
続けて、と言われましても、まじまじと見られると途端に食べにくくなる。一間だけ気まずい空気が流れるが、やはりこの目の前に広がる美しい眺めには勝てない。
それに、ふと気になる事があった。
「昨夜見た時1人で食べてはったけど、いつも1人で?」
「そう」
そうだ、彼女は一匹狼と言われているんだ。
「俺、食べるの好きなんで1人でどこででも何でも食べるんすよ。でも、誰かと食べる飯がいっちばん美味い! これは子供の頃から変わらへんです。だから、見るだけじゃなくて、ハーミラさんも」
言いながら、サンドウィッチの弁当箱を差し出した。
「俺がさっき食ったのはこの野菜のやつでー、こっち、この麺が挟まってるのが気になる! ハーミラさんはどれにします?」
「私は……分からない。あなたと同じのにする……」
「じゃ、この麺のやつ一緒に食べましょ!」
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