20.ドキドキわくわくピクニック。美女と馬と時々俺6
さっきの薄切りのバニとは違い、長めでフカフカのバニに切り込みが入っており、そこに太めの麺が挟まっている。これは食いでがありそうだ。
「いただきまーす!」
大きく口を開けて迎え入れる。
ふわふわの生地を押しのけて、ぷりぷりとした歯ごたえの麺が揃って俺に食われに来る。バニに負けないような、濃いソースの味だ。それに、ゴロッとした肉達があちこちに隠れている。
サンドウィッチは、サンドウィッチ伯爵がカード遊びをしながら発明したと言われている。が、これはそんな優雅なものじゃない。
そうだ、カードなんて放っぽりだして、ひと狩りいこうぜ!
馬は草食だろうが、俺は雑食。何でも喰らうケダモノだ。
弁当の野菜も、飾りでいい。いや、飾りがいい。それでこそ、活力漲る、狩人の飯だ!
ハーミラをチラリと横目で見ると、今まさに口を開けて頬張ろうとせんところだった。
普通の女性なら、少し恥じらったりするところだろうが、ハーミラは全く憚らずにそのままかぶりついた。いい食べっぷりじゃないか。
(照れながら、「大きく口開けるなんて、恥ずかしいよぉ」って言う女の子も可愛いけど……飯好きとしては、こうやって気にせず食べてくれる子が好きやなぁ。……恥じらう女の子と飯なんてシチュエーション、今まで無かったけどな!)
「な、めっちゃ美味くない!?」
「……。…………。」
視線はこちらにくれたまま、一生懸命噛んでいる。何だろう、ハムスターやリスのように見えんこともない。
「食べながら話すのが難しい。それに、少し食べにくい。でも……。美味しい、と思う」
食べかけのサンドを見詰めながら、ぽつりと言った。その最後の一言に、俺は一気に嬉しくなり、捲し立てるように話した。
「せやろ!? このさ、パン……じゃない、バニのフカフカ加減もええし、何より中の麺! これ何味なんやろ? 麺がモチモチしてて美味いよなぁ。太い麺でもソースの味がしっかりしてて……。あ、俺の故郷にはこれに似た焼きそばパンってのがあって、紅生姜とかが……」
「……ふっ……」
え、笑った?
ハーミラは、ほんの少しだが、確かに口角を上げていた。ような気がする。
「笑っ……」
「いつも、そんな事を考えながら食べてるの」
見間違いかのように、また唇は元の一文字に戻った。
「え? あ、ああ……。うん、考えるって言うか、食べてたら自然と思わん? めっちゃウマ! これ何が入ってんねやろ? とか、食感たまらん〜! とか」
ハーミラは、サンドを頬張りながら聞いている。
「それでな、誰かと食べると……。そういう美味しい物を共有というか、分かち合えるというか。1人で食べるよりずっと美味しく感じる。こういう風に喋りながら食べると、気が抜けて自分の素が分かってもらえるしなぁ。まぁ、時と場合によるけど……。とにかく。俺は今、ハーミラさんとこうやって同じ弁当を食べられて、めっちゃ嬉しいし楽しいし、幸せやなーって思てますよ。美味しいと思って食べてるから、美味しそうに、幸せそうに見えるんちゃうかなぁ」
「…………」
不味かったら不味かったで、ネタになるしなぁ。と思うのは、俺が関西人だからだろうか。
笑いながら食べられたら一番なのだが、ハーミラとはなかなか難しそうだ。
「全然分からない」
クールな返しに、さすがにしゅんと項垂れる。
しかし、ハーミラは自分から丸いフライの串をつまみ上げて、こう言った。
「……けど……。私も今、あなたと食事ができて楽しいと思っている」
今度は確かに、笑った。
めっちゃ可愛い! とか、もっと笑ってー! と思うより先に、俺の心臓が大きく鳴った。
「お、おおぅ……?」
「どうしたの」
「いや、もっと笑ったらええのに……」
「? 笑ってない」
ハーミラは、キョトンとしてそう答えた。
異世界転移したけど、今日もメシがウマイ〜ギルドでバイトしながら、のんびり異世界飯探訪〜 モニカ白兎 @kuratsukamoni
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