17.ドキドキわくわくピクニック。美女と馬と時々俺3

 プレィグの背中に乗る事、約4時間。休みながらとは言え、疲れた……と思うでしょう?

 前述した通り、俺の神経は背中と脚に集中しているので、全く気にもならない。まだ乗れる。まだいける。

 しかし、腹は減ってきた。

 

 森を抜けると、山が目の前に迫ってきた。これがタルビナと言われる山なのだろう。

「麓のダンジョン入口付近にある小屋が中継ポイントで、そこに暗号箱ワードボックスを置いてるそうです」

「分かった」


「ギュオオォォォッッ!!」

「!?」

 

 ハーミラがプレィグの手網を握り直した時、目の前の山から咆哮が聞こえた。思わず耳を塞ぐが、なんの意味も成さない。

 

「なっななな、なん、な!? なんや!!?」

「タルビナリウス」

 言いながら、上を見る。ハーミラの視線の先を見ると、ナニモノかが陽の光を遮って、俺達に大きな影を落としていた。俺の住んでいたボロアパートよりもデカイ。しかも、翼が生えている。何なら、こっちに向かって…………。

「降りて来てはるー!?!?」

「プレィグ!」

 名を呼ばれたプレィグは、その場から勢いよく駆け出した。俺は思わずその逞しい首にしがみつく。ハーミラは手綱をさばきUターンすると、こちらに急降下しているタルビナリウスに向かってプレィグを走らせた。

 

「これ、持ってて」

 情けなくプレィグの首にしがみつく俺をべりべりと剥がすと、無理やり手綱を持たせた。

「はぇ!? は、へぇっ!?」

「舌を噛む。口を閉じて。……プレィグを信じて」

 情けない声しか出ない俺にそう告げると、彼女は鐙を思い切り踏み込み、空高く舞い上がった。タルビナリウスが、馬ごと喰わんと口を開け鋭い牙を見せる。

 

 俺、ドラゴンに食われて死ぬんか……。

 走馬灯のオープニングが流れ始める。死を覚悟した次の瞬間、閃光が走った。

 

「ギッ……!!」

 

 ひとつの咆哮を残して、タルビナリウスの動きは止まった。プレィグがその下を走り過ぎると、見計らったかのようにしてタルビナリウスが落下し、地響きを起こした。

 

「え、え!?」

 プレィグは疾走した脚を緩めると、静かになったタルビナリウスに向かって軽やかに歩き始めた。ハーミラは探すまでもなく、制圧するようにしてその巨躯の背に乗っていた。

「す、すっげぇ……!」

 

 「タルビナリウスの鱗3枚納品」という依頼が、いつまで経っても解決せず、ギルドの掲示板にずっと貼られているのだ。依頼主の薬屋の魔女が、しょっちゅう訪れてはガッカリした顔で帰って行くのが可哀想で。

 それを、いとも簡単に。ルベルクラスは伊達じゃないなと思い知らされる。

 ハーミラも掲示板を見て知っていたのか、団扇のような大きな鱗を3枚剥ぎ取っていた。

 

「討伐依頼じゃなかったから、殺してない」

「そ、それって大丈夫なん……?」

「睡眠魔法をかけておいた。半日は起きない。私達が縄張りに入ったから襲ってきた。それだけ」

 確かに、大きな体がゆっくりと上下に動いている。スピスピという音も聞こえて、なるほど本当に寝ているようだ。

 

「それより、あれ」

 ハーミラが指さす方を見ると、探していた小屋が立っていた。そばに、崖を切り抜いたように洞窟が口を開けている。

「もしかして、あの洞窟がダンジョン?」

「そう。30年前に突如現れた。まだ未踏の部分もある」

 

 初めてのダンジョン!

 冒険者や狩人に憧れてる訳では無いが、ものすごく気になる。めっちゃ入ってみたい。

 でも、さっきのタルビナリウスまでとはいかずとも、あんなモンスターがウロウロしているのだろうなと思うと……。

 

「やめた方がいい」

「ヒェッ」

 俺の心を見透かしたように、ハーミラが忠告した。

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