16.ドキドキわくわくピクニック。美女と馬と時々俺2

「どれくらい歩ける」

 ギルドを出ると、彼女が質問してきた。

「え!? えーっと……」

 梅田から難波までは歩けるか? でもいつも移動の基本はチャリンコやったし……。

「1時間……2時間……くらいは歩ける……と思います」

「……分かった」

 体力無さすぎん!? とか、結構歩けるやーん! とか、何をどう思ったのかが一切。本当に一切分からない。ポーカーやったらめっちゃ強そう。やった事ないから知らんけど。

 

 そのまま街の外壁まで進み、門を出た。街から出るのは初めてだ。外と言えば、日本から転移した時に、訳も分からず草原に寝転がっていた時以来だ。

 街の外は草原で囲まれており、小高い丘と、遠くに山が見える。風に乗って、ほんのり磯の香りもする。

 

 彼女が、太腿に巻いた革製のポーチから、白と黒の小さな木彫りの馬を2つ取り出した。

「馬には乗れる」

 質問され、はるか遠い鼻の垂れた子供時代に、牧場で体験乗馬をした記憶が蘇る……。

 

「乗れません」

「そう」

 彼女は、木彫りのひとつをまたポーチにしまい、残ったひとつを高く高く放り投げた。

 

「解除」

 彼女がそう言うと、その木彫りは地面に落ちる前に本物の馬に姿を変えた。

「うぉお!? すっ、すっげーー! 馬ちゃんやーん!」

 動物好きとしては、かなり嬉しいサプライズだ。

「さ、触ってみても……」

「構わない」

 許しを得て、ドキドキしながらそっと撫でてみる。艶やかな黒い毛が美しく、繊細な長い睫毛が優しい瞳を隠している。

「わぁ、わぁ〜。た、たまらん! 馬ちゃんや!」

 大声を出してびっくりさせる訳にはいかない。俺は、声を落として逞しい頬を撫でた。

「馬ちゃんじゃない。プレィグ。牡馬」

 言いながら、ひらりと乗馬する。

「プレィグ、今日はもう1人乗せる。構わない?」

 頭を撫でながら、ピンと立った耳に話しかける。ふと、海色の目が優しく凪いだ気がした。

「構わないそう。乗って」

「お、おお!? ど、どうやって……」

「捕まって」

 白い手が差し出される。とても深紅ルベルレベルの狩人とは思えないほどの美しい手だ。

 指示されるがままに鐙に足をかけ、その手を握った。すると、こんな華奢な体からは想像もつかないような強い力で、グイッと上に引き上げられた。

「ヒ、ヒィィ!」

「大丈夫。あまり動かないで」

 彼女の前に、ちょこんと座らされた。彼女が、俺越しに手綱を握る。

 (かっ、かか、からだが……!)

 柔らかく温かい肌を、背中と脚に感じる。この世界の露出の激しい服には慣れてきたが、くっつくとなると話は別だ。ダメだ。思考ができない。俺の脳みそは停止し、全神経が背中と脚に移動してしまったらしい。

「中継ポイントはタルビナ山の麓。遠くはない」

 ハーミラが言うが、俺の耳には最早届いていなかった。

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