12.セーユさんの昼定食〜挙動不審と情緒不安定のスパイス強めで〜
結局、予想よりかなり早く仕事を片付けたというトルテヤを従えて、ライラス一行は新規ダンジョンへ潜って行った。ちなみに、前日から当日の早朝まで、市場でアレコレと買い付けているブレドーを何度も見かけたが、もちろん無視した。
「ライラスさん達、今頃リデルテ平原辺りですかねー」
昼も近くなった頃、サトゥナが地図を見ながら言った。
「いや、アイツらのことだ。多分そこは越えてリッチョール大橋くらいまで言ってるんじゃないか?」
全く聞き覚えの無い地名が飛び交う。サトゥナが指さした辺りを見るが、デルツハルツと書かれた現在地よりはるか遠くを示していた。
「え!? まだ数時間しか経ってないのに、こんな所まで行けるんですか!?」
車も電車も飛行機も無いのに!?
「ああ、アイツらなら余裕だな。トルテヤの転移魔法でひとっ飛びよ。ただし、普通はこんな長距離は飛べねぇ。一度に運べる人数も1人……いや、2人までだな」
「トルテヤさんって、国内で5本の指に入る魔法使いなんですよ。あれ? 知りませんでした?」
「知らへんし!」
あんな大人しそうな子なのに、そんなに凄かったんか!? 気軽に話していた事に、今更不安になってきた。
「転移者や転生者のスキルって、ずば抜けてる場合が多いんですよ」
「サトゥナ!」
「……あっ」
説明してくれていたサトゥナに、ゾースが口を噤むようジェスチャーで示した。
「へ、へへっ……。良いんすよ、全然……気にしてないんで……」
「……」
重たい沈黙が流れそうになった時、ゾースが口を開いた。
「おっとー、もう昼だな! よぉし、イーノ、先行って来い!」
「そ、そうですね! どーぞどーぞ、ゆっくり行ってきて下さい!」
痛い。気遣いが痛すぎる……。でも、俺も大人だ。気遣いに気付かぬフリをしよう。
「……ありがとうございます。ほな、行ってきますね」
2人は、俺が扉を開けるまで、ニコニコと手を振って見送ってくれた。不器用か……。
外に出たはいいものの、全く昼食のことを考えていなかった。順番的に、今日は一番最後に休憩に行くことになっていたからだ。2人が何を食べたのかを聞いて、それを参考にしようと思っていたのに……。
「参ったな」
自然と脚は「龍の溜まり場」に向かっていた。店の前に行くと、聞き慣れた大きな声が俺を呼んだ。
「イーノちゃん! ちょうどよかった! ちょっと来ておくれよ!」
「どしたんです?」
手招きされるがままに、ショルテの傍によった。
「行き違いにならなくて良かったよ! あのね、頼みたい事があるんだけど……」
ショルテの友人の娘の友達の知り合いの……まぁ、ショルテ遠い知り合いが、最近飲食店を始めたが全然客が来なくて困っているのだと言う。
「ほうほう……。ん? それで、なんで俺に?」
「なんでも何も、イーノちゃんが店に来た時、いつもすごいじゃないか! みーんなイーノちゃんと同じ物を注文するんだよ! だからさ……」
「つまり……サクラって事やな」
「サクラ……ってのはちょっと分かんないけど、まぁ客寄せとして食べに行っとくれよ! 話はつけといたからね、タダで食べられるよ!」
「タダで!」
うほほ、そりゃ役得だ! 俺はにやけながら、その店の場所を地図に書いてもらった。
地図を見る限り、飲食街からは外れているが、人通りはまぁまぁある通りだし、そこまで立地が悪い訳では無い。
(もしかしたら、マズイメシなんかもしれんな……)
そうだとしても、この世界に来てまだ「マズイ」と思った食事に出会っていないので、それはそれとして楽しみでもある。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます