第37話 知らん間に世界征服してしまうかもしれん
もし俺に、ロボットを破壊できるような力があったら、この先満嗣さんとこの関係を続けることは出来ないと思う。
もし俺にそんな力が本当にあるなら……俺は……。
そこまで考えて、子供っぽいことが頭に浮かんだ。
世界征服。
いやいやいやいや!
それ以前に、犯罪者だろ。
しかし、ただの人間にそんな力がある等とは考え難く、更に今の今まで何も問題なかったのだから、やはり違うと思うのだ。
どちらにしろ、この件は俺にはどうしようもい。
第一、俺がもし本当に原因だとしたら、満嗣さんが気付いてくれるだろうと思うのだ。なんたって、超エリートの警部なんだから。ははは。
そこまで考えて、なるべく考えすぎないようにしようとは思ったものの落ち着かず、せめて満嗣さんの様子だけでもと思って携帯でメッセージを飛ばした。
暫くしてから、返事が来た。
『大丈夫。今夜帰るから。』
という、シンプルなものだった。
今夜帰ってくるんだ、大丈夫なんだ。と思って一旦安心はしたが、相変わらず圭介からの連絡はない。
夜になって、満嗣さんが帰って来た。
俺は、すっかり日課の夕飯の用意をテーブルに並べながら言った。
「お仕事中に、すみません。ニュース観て、心配で」
満嗣さんは、疲れているように見えた。当たり前か。
「私が倒れた日から、急に何人ものロボットやアンドロイドが倒れだしてね。ボディの90%が破壊されてるロボットが殆どで・・その、言いづらいんだけど、病院でウサちゃんの担当していたカウンセラーと看護士が、亡くなったわ」
「え?」
俺の全身から血の気が引いた。随分経つのだけど、定期的にウサ子を看てもらっていたのに。
「それ以外にも、何人か亡くなってて。彼女達は、完全なロボットだったからダメだったみたい。あと、アイノコだったりアンドロイドだったりする人達については、一部の救命プログラムが作動して、何とか一命を取り留めたって感じみたいね」
圭介は……。
「あの、俺の友達と連絡が付かないんです。圭介っていう、アイノコなんですけど」
「そうなんだ。もしかしたら、巻き込まれてるかもね。けど、あんたが居た病院を中心に広まってるみたいだから、どうなのかな。彼は、結構来てたの?」
「はい。俺の家族の代わりに着替えとか日用品とか持って来てくれてました」
「もしかしたら、G区の病院に隔離されてるかもね。F区は隔離が決まってて、G区は最先端のロボット病院とか研究施設があるから。殆ど、研究の為の区だから、今回の件は原因究明も兼ねてG区の研究病院に隔離する事になってるの」
「面会に行けますか?」
「人間なら大丈夫だと思うわよ。ただ、証明のパスは忘れないようにね。明日にでも、私が連絡してみてあげるわ」
「ありがとうございます」
圭介、とにかく無事だといいんだけど。
「そういえば、あんたのアパートも隔離されたのよ。住民が倒れて、検事達も倒れちゃって。アパートが原因と言うより、あの場所が結構酷いんだけど」
俺は、生唾を飲み込んだ。そして、満嗣さんに思っていた事を言った。
「俺が、原因なんでしょうか」
「はあ?」
と満嗣さんが、声を上げた。
「だって、俺がここ最近行ったことがある場所ばかりだし、俺が関わった人が倒れて、死ぬとか……サライさんにしても、満嗣さんだって俺に……した後に……あと、もしかしたら圭介だって……」
満嗣さんは、笑った。
「そうねえ。もしそうなら、世界征服出来ちゃうね。でも、それはないわよ。あんた、ただの人間でしょ? 人間にそんなこと出来るはずないもの。それに、大凡の目星はついてるから」
「というと?」
「霞に、丁度今夜話そうって思ってたのよ。私の身体から、今まで無かった最新のウイルス型ナノマシーンが発見されたの。そのナノマシーンが原因なのはわかったのだけど、それが何処から出てきて、どこから潜入したのかわからない。そこで浮上したのが篠山」
「篠山さん?」
「ええ、篠山は篠山誠太だったの。それで、そんなナノマシーンを開発出来るのは、あいつだけだって話になって」
「それだけで、犯人だって疑うんですか?」
「まあ、聞きなさい。失踪直前まで研究されていたナノマシーン細胞があるのだけど、どうやらその細胞によく似てるってことなの。その細胞を分析したくても、開発者にしかわからない。で、高度な研究機関にまわしたところ、少しだけ当時の篠山の研究を知ってる人間がいたの。その人間が、篠山の研究細胞によく似ていると証言したわ。そして、当時の篠山がこう言っていたことも。毒にも薬にもなる細胞、だってね」
「毒にも薬にも」
「そう、篠山の判断でどうにでも出来る。そして、もしそれが本当だったとしたら、篠山は毒を選んだことになる。無差別にロボットを殺し、殺そうとした重罪人」
篠山さんは、篠山さんのさじ加減で、多くのロボットを救うことも殺すことも出来たって事か。
「もしそうだとしたら、悲しいな。確かに、気に入らないロボットはいるかもしれないけど、例えもし人間だけになったとしたって、そんなの変わらないと思うんだけど。何とか、助けてやれないのかな。きっと、こうなってしまったのは、篠山さんだけのせいじゃないと思うし。だって、最初は薬になるための研究をしてたんだって話だったし」
満嗣さんは、溜め息をついた。そのあと、感情のない声で告げた。
「霞が、犯人として仕立て上げられたとしても、あんたは、そう言えるの?」
俺は、はっとした。
「私は、そんなこと言えない。警官である以上に、あんたの恋人になったのだから」
篠山さんが、なぜ俺を選んだのか。自分の代わりの犯人が欲しかっただけだとしたら、そんなの誰でもよかったんだろう。
「私は、霞を助けるために、篠山を捕まえなきゃいけない」
やはり、俺に疑いが掛けられているのだろう。だから、満嗣さんは俺をここへ呼んだ。バカな俺でも、さすがにわかる。
「俺、本当にバカですね」
満嗣さんが忙しいのも、帰れないのも、きっと今は全部俺のせいだ。じゃあ、俺が諦めたら・・満嗣さんは救われないし、他に被害も出続けるのだろう。
「俺、出来る限り協力しますから。篠山さんを捕まえて、犯人にしろそうでないにしろ、はっきりさせましょう」
「よし」
と言った満嗣さんの顔を見た。少しだけ、笑っていた。
「さあ、ご飯にしよ! もう、あんたのせいで冷めちゃったじゃないの」
「あ、すみません。温め直しますから」
「お願いね」
料理を前にした満嗣さんは、楽しそうで幸せそうで、俺も嬉しくなった。
「さあ、ウサ子は丁度いい温かさだから、一人で食べれるよね」
「うさもー」
なんで真似したがるので、温めるフリをしてやった。気付かず、満足そうに笑う。
「さあ、いただきますしてね」
「いららきまうー」
言い終わるのが早いかどうかのタイミングで食べ出すウサ子。この子の為にも、なんとかしないとな。
ふと、思い出す。
「そういえば、さっきの話の後で今度は、って感じの問題なんですけど」
満嗣さんが、前菜のサラダをつつきながら「なに?」と問う。
「俺、アパート追い出されちゃったみたいです。ウサ子のこともですけど、警察沙汰が立て続けで……迷惑だから出ていけって。ご迷惑承知に……もう少し置いてもらえません?」
「恋人なんだから、気遣わなくてもいいって言ってるでしょう。もういっそ、ここに引っ越してきたら? 霞も慣れたでしょう?」
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