第43話 力以外の殺し方
射出した腕を再構成させつつ、次の攻め手を思案します。
「暗い! 暗い、暗い!! うわあぁぁぁぁっ!!」
視覚と、多分聴覚も完全に塞がれた鉄巨兵が、上半身を回転させて全方位に砲弾をバラ撒いています。
私達がとっくに離れた窪地に身を潜めているのも気付いていません。目潰しの暗虚が蒸発するまでの数分、うるさい以外は安全に作戦タイムが作れそう。
「んで? アレの攻略法って無いのですか?」
『見た目はロボでも、構造としてはわたくしのアバターと同じ。外殻さえ砕ければ、中身のアスホーを引きずり出せますの』
「その砕く方法が知りたいのですが」
『陛下の術に暗虚を乗せれば、あるいは』
実に単純な回答。その陛下がいるのが、この数キロ四方の縦穴の、途方もない重量の岩石の底でなんですけど。
常人なら死んでるとこですが、今頃地上に向かって岩盤を掘り進んでいても不思議でないのが陛下です。他の二人も私より数段タフですし、普通に生きてて驚きはありません。
むしろ三人が地上へ脱出するまで、私とセキシスが生き残る方が難しそう。素人丸出しの挙動とはいえ、鉄巨兵の火炎弾の威力は脅威的。一撃即死コースは確実です。
「接近戦でなんとかなりません? 関節の隙間を攻めるとか」
『ふーむ。……あ』
「何か妙案でも?」
重ねて質問するも、セキシスは黙って視線を逸らしました。眼球だけなので分かりやすい。
「危険な手段ですか?」
『あるけどレティも大打撃確実ですの。刺し違える覚悟はありまして?』
「構いません、やりましょう」
即決する私に、セキシスはまだ苦い顔……いえ、渋い視線を送ってきます。
『低い勝率のギャンブルですのよ? 合理性はどうしたんですの?』
「合理とは相対的なものであり、主観で決まります。自分にとって今一番利益になること、それが私の考える『合理性』です」
だってほら。目的地まで最短ルートを辿る場合でも、ゴールがコンビニか駅かで道順だって変わるでしょう?
『なら今の目的地は?』
「ノコノコと出向いてきた間抜けのケツに即死級の一発をカマしてやることですかね」
『……あなた、前世で暴走族でもやってましたの?』
「失礼な。前世の時点じゃ法令に違反する行為はしませんでしたよ」
多分。
『や〜れやれ。向こう見ずですこと』
「一度死んだ人間のメンタルを見くびらないでください」
そう返すと、でっかい溜め息を吐かれました。
セキシスが思いついたという作戦をというのは、確かに私にとって最悪に近い手段でした。凄まじい精神的ダメージに加えて後遺症(トラウマ)も被ります、確実に。
その分だけ有効そうなので決行しますがね。
「そんじゃ、援護頼みますよ〜」
『んな買い物でも頼むかのように……』
セキシスの作った巨腕から降りた私は、鉄巨兵の様子を確認しつつ、死角に回り込むよう移動を開始しました。
敵は目晦ましが解け、こちらを探す真っ最中です。
「どこだっ!? どこだぁぁぁぁっ!!」
足元を手当たり次第に砲撃して何かを探す仕草は、スリッパ片手にキッチンのゴキブリを探した在りし日の自分を思い起こさせます。
その間に、セキシスは暗虚から無数のボルトアクションライフルを作り、空中に並べていました。
……なんか、妙にレトロな銃ですね。
『シュ〜っとぉ〜』
窪地の底から、高高度まで一気に飛び出したセキシスは、気の抜けた掛け声とともにライフル群の銃爪を一斉に弾きました。
空中から銃弾の雨あられが、鉄巨兵を襲います。
「ひっ!? うわあぁぁぁっ!」
装甲を無数に叩く銃撃に、激しく狼狽えるアスホー。ダメージも無さそうなのにたたらを踏み、尻もちを付きます。
そこへ追撃の第二射撃が放たれました。
ところでボルトアクションライフルって、一発ごとに弾込めが必要ってFPSゲームで習ったのですが。セキシス、構わず連射してますね。
「はぁ、はぁ! このっ!! 僕を見下すなぁぁぁぁ!!」
鉄巨兵がすっ転んだ態勢のまま、両手の十指を空に向けます。狙いも甘く弾幕を張りました。
意識が完全に空へ向いたお陰で、私は安全にヤツの背後に回れます。
でも慌てず慎重に。ヤツの背中を目指して匍匐前進です。苦渋も判断で胸を削ったことが活きています。
「当たれ! 当たれよぉぉぉっ!!」
鉄巨兵が追加で両肩と両腰の装甲を展開して、二連装4門のガトリング砲を弾幕に加えました。
セキシスは慣性を無視した上下左右への高速移動で回避します。私の目でさえ残像を捉えるのが精一杯な運動性能です。
でも余裕そうに見えて、セキシスのからの射撃がぱったり途絶えていました。反撃の隙が無いのです。一発でも受けたらアウトの中、彼女もまた命懸けで私の活路を拓いてくれているのです。
「避けるなぁぁぁぁぁ!!」
脛からどうやって収まっていたんだという量のホーミングミサイルまで放たれて、セキシスの瞳孔がギョッと絞られます。
目は口ほどに物を言う、とはいいますが、眼球だけでも表情って分かるんですね。
『ひぇっ!? あ、……っ、たるもの、ですか!』
ミサイルでセキシスの退路を塞ぎつつ、密度を上げた弾幕が彼女を追い立てます。
あわや絶体絶命ですが、ガラ空きの背中に私が間一髪取り付きました。
「お、お前! い、いつの間に!?」
「周囲の警戒を怠るんじゃありませんよ、クソド素人が」
右肩辺りにしがみついた私は、その場で自身の外殻である術盾を解除します。剥き出しとなった暗虚がベチャっと広がります。
ドロドロになった身体で、装甲の隙間へと強引に身体を捩じ込んでいきました。
「ひっ!? 入ってくるな、気持ち悪い! 離れろッ!!」
私を叩き落とそうとするも、相手の手は届かないので思いの外スムーズに入り込めました。
『我慢なさい! 私だって貴様の中へ潜り込むなんて、汚水で詰まった便器に手を入れる方がマシだってんですよ!!』
だけど、外が駄目なら内側から攻めるっきゃないでしょう。だったら手段は選びません!
そ〜れ、アクセース!
「ひぎぃぃぃぃぃっ!?」
食いしばった悲鳴を上げながら仰け反った鉄巨兵は、その姿勢で動きを止めました。
ヤツの意識領域をクラッキングに成功。セキシスが私に眼球を飲み込ませたのと逆のことを、より苦痛を感じる形でやってる訳です。
こっからは私とアスホー、互いの精神力の根比べ。となれば負ける気なんて微塵もしませんが……汚物まみれの下水管に頭から突っ込むような不快感だけは、どうしようもありませんね。
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