第12話 妹弟子と戯れる
何度も言うようだが、俺の養父は魔術師である。
ーー魔術師。
超自然的な力を源に、様々な現象を引き起こす。杖を振り自在に魔法を操り、箒で空を飛ぶ。そんな夢溢れるファンタジーなイメージを多くの人々は抱くことだろう。
……だが、現実もっと泥臭く陰気である。
ならば、魔術とは何なのか。
それを説明するとなると、なかなかどうして気の遠くなる作業だ。何故なら、それは学術的な証明、哲学的な問答が必要不可欠であるからだ。
だが、俺の独断と偏見で乱暴に解釈するならば、魔術とは科学の前段階、といったところだろうか。
ありとあらゆる現象の根源を探求することにおいて、魔術と科学にそう大きな違いはない。ただ、持てる知識を持っても解明できない事柄を、思想や宗教と言った不明瞭なものに委ねるかどうかだとの違いであると俺は思っている。
魔術・魔法・呪術・錬金術・巫術。
場所によって様々な呼び方が存在する。それらは万物を解き明かすある種のツールであったと言える。後々、不明瞭な思想が除去され、論理的に体系化される。そして、時代は科学へと移行するのだ。
故に、魔術は万能ではない。
だからこそ、探求する。
魔術師とは真理の探求者。
根源に辿り着くために生きて死ぬ。
……と、言うと格好良く聞こえるが、詰まるところ根っからの研究オタク。家に閉じ籠り、ただひたすらに研究・実験・評価・改良というサイクルを繰り返す。
……まぁ、大体そんな感じ。真実はいつだって残酷だ。魔術に対する美しい幻想なんて、溝にでも捨てておけ。俺もとっくの昔にそうした。
ラリッサの自宅。
リビングのソファーに寝転がりながら、俺に膝枕をする少女に話しかける。
「……つまり、お前も引きこもり研究オタクの一員ということだな」
「何がつまりですか。兄さんは相変わらず意味が分かりません。それにその話でいくと、兄さんだって同じ引きこもり研究オタクになるのですよ?」
俺の言葉に眉をひそめる少女。綺麗というより可愛らしい顔立ちで、素朴な村娘といった雰囲気ミルクティーブラウンの髪は腰まで伸び、緩やかなカーブを描いている。淡い碧色の瞳が呆れたように瞬いた。
「シンの字、兄弟子に何て言い種だ。海より深く反省しろ。そして、山より高く俺を崇め奉れ」
「……本当に兄さんは何を言ってるんですか。後、シンの字なんて呼び方、可愛くないから止めて下さいね。シンシアか、シンディでお願いします」
諌めるように頭を撫でられた。
「うっせーな。分かった分かった。ちっ。シンディ、これで良いだろ?」
「何でそんなに不満そうなんですか!?」
むきー、っと手を上下に振って抗議する少女、改めてシンシア。何をとち狂ったのか養父の弟子で、俺の妹弟子と言うことになっている。兄さんと呼ばれているが、血縁関係ではなく兄弟子だからである。
シンディの生まれはウェントゥスという小さな村で、根っからの田舎娘。芋っぽさが抜けないところがあるが、それを補っても余りあるほどの胸は大きい。前世はきっと牛だったのに違いない。あと、エロい。
「兄さん、また良からぬことを考えていますね? 目付きがいやらしいです」
「はぁ、馬鹿言うな。俺ほど清廉潔白な男はいないぞ」
そう言いながら、シンディの胸を鷲掴みする。
いいか。これはセクハラではない。純粋に妹弟子の成長をはかっているだけだ。
むっ、前より少し成長したか。柔らかく揉み手応えがある。まあ、俺が手塩を込めて一から育ててやったんだ。当然だな。満足げに頷いてみせる。うん、エロい。
「ひゃあっ! 突然何するんですかぁ。に、にににぃさんの馬鹿、変態、おたんこなすぅ!」
顔を真っ赤にして、抗議するシンディ。
うむ、そうこの顔だ。やはりこうでなくては、面白くない。
俺はにやりと笑って、シンディの胸を更に強く揉みしだく。
「誰がおたんこなすだ。失礼な奴だな」
「ひんっ、兄さん。も、揉まないで下さいよぉ。やあぁ、もう許して下さい」
涙目で上目遣いのシンディ。
羞恥で頬は上気して、何とも言えない色気を感じる。
ぞくりと身体が震え、俺の中の加虐心が顔を出すがそれをぐっと堪える。こいつ反応が一々可愛いからついつい苛めたくなっちまう。だから、やり過ぎるんだよなぁ。こればっかりは仕方ない。止めるつもりもないので、諦めろ。
俺はソファーから起き上がりシンディ向き直る。それからシンディの腕を掴み、強引に抱き寄せた。右手を腰に回し、左手でポンポンと頭を優しく撫でてやる。シンディは俺の胸板に顔を埋めると、甘えるように鼻を鳴らした。
昔からこうしてやるとすぐ大人しくなる。アンもそうだがシンディもチョロすぎるのではないだろうか。すこしばかり心配になる。まぁ、大体俺のせいなんですが。それについては、反省も後悔もしていない。
うむ。良いぞ良いぞ。この揉み心地、最高にエロくて良いぞ。本日、何度目かの褒め言葉を心の中で呟く。
(田舎娘は純粋さに漬け込まれて、チャラ男に喰われてしまうのが世の理。それを未然に防いだ俺、スゴい。……結局、俺が田舎娘を喰ってしまったんだが)
自分自身のクズっぷりに惚れ惚れする。何事も開き直りが肝心である。
「ううっ。兄さん酷いです。いつも私の身体を好きにして。ねぇ、兄さん。こんなことばかりされて、私もうお嫁に行けません。兄さんのせいですからね。ちゃんと責任取って下さい。そうじゃないと、許さないんだからっ」
責任。
俺がこの世で最も嫌いな言葉だ。
とりあえず、聞かなかったことにした。
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