第7話

 溝口は逃げるようにずって行く。

 嫌々と首を振りながら。

 

「そんなに怯えなくてもいいじゃないの。

 愛し合ったのにねぇ。

 先生にしたら、遊び?金づるだったとしてもね…」


 紫織が静かに近づいて来る。

 溝口が教えた、患者さんをリラックスさせる天使の微笑みで、一歩、一歩…。


 溝口まであと一歩の所で、診察室の濡れた床に気づく。

「あらあら、先生?

 ふふふっ、介助します?

 清拭は、もう、必要無いですよね」


 溝口は、近づいて来る紫織から逃げるように必死に身をよじるが、願い虚しく両手首に刃が当たり、拘束は解かれる。

 そして、刃は鮮やかに足首に降りていく。


「先生、白衣の天使だって、羽が折れたら床の上で眠るのよ。

 床の上にだって天使はいるわ」

 

 溝口は、拘束から解放された。

 だが、今や溝口の首は赤に拘束されている。


「それじゃ、先生。

 床に広がるご自分の血の花束で眠ってね。

 先生に最後のプレゼントよ」

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床の上の天使 栗栖亜雅沙 @krsagscat

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