仙台から松前までの
奥州道中の名所を
巧みに詠み込んでいて
いつも感心しています。
文政2年 版元伊勢屋半衛門
国分(こくぶん)の町より
ここへ七北田(ななきた)よ
富谷(とみや)茶飲んで
味は吉岡(よしおか)
寒いとて
焚かれぬものは三本木(さんぼんぎ)
雪の古川(ふるかわ)
荒谷(あらや)冷たや
思いきり日は高清水(たかしみず)
宿取りの杖
築館(つきだて)て道急ぐとは
あれ宮野(みやの)
沢辺(さわべ)の蛍草むらに
鳴く鈴虫の声は金成(かんなり)
噂する人に癖有壁(ありかべ)に耳
口の開け閉て一関(いちのせき)なり
山目(やまのめ)で酒呑んだ故
前沢(まえさわ)を
つい水沢(みずさわ)と通る旅先
今日の日も
はや入相の金ヶ崎(かねがさき)
旅の疲れを相去(あいさり)の関
東路を国のつつみに鬼柳(おにやなぎ)
みどり尽きせぬ千代の齢を
紅の色争ふや花巻(はなまき)の
石鳥谷(いしどりや)より見ゆる山畑
不如帰声張り上げて郡山(こおりやま)
卯の花咲ける花の盛岡(もりおか)
枝柿の渋民(しぶたみ)なれば
沼宮内(ぬまくない)
宿への土産はこれか一戸(いちのへ)
梅が香に風の福岡(ふくおか)
打ち越えて
春の眺めはせん金田一(きんだいち)
三戸(さんのへ)を
たち行く旅の麻水(あさみず)や
五戸(ごのへ)を過ぎて
伝方寺(でんぽうじ)宿
七戸(しちのへ)や
今日の細布細からぬ
広い野辺地(のへじ)に
人の小湊(こみなと)
旅先の
春の野内(のない)に一夜寝む
すみれに交じる草の青森(あおもり)
降る雨に流す桐油の油川(あぶらかわ)
日和になるは飛鳥(あすか)あさてか
酌む酒の左関(ひだりぜき)とて旅人のよい中沢(なかさわ)に泊まる相宿
咲き初むる
花の蟹田(かにた)も長閑さに
野田かと思う春の平舘(ひらだて)
昔より今別(いまべつ)なれや
三厩(みんまや)の
往来賑ふ人を松前(まつまえ)
以上
奥羽街道の旅でした