第3話

 紫織が病室を巡回している。

 立ち止まり、窓から外を見ると、頬には涙が伝っている。


 気配を感じて、紫織が慌てて涙を拭い払い振り返ると、

「今日は言い過ぎたかな。

 でも、患者さんをリラックスさせてあげるのも我々の仕事だ。

 それと、仕事中も表情にも気を付けるように。


 僕は、明るい君が好きなんだ。

 今日みたいな顔では、患者さんは診察が嫌になるよ。

 分かったかな?」


 溝口の言葉に紫織はうつむいた。


「泣かせたお詫びに、ジュースでもどうかな?」

 紫織は、急にふわふわした気持ちで、溝口の後について行く。


 そこは、使われていない検査室。

 非常灯に照らされたソファが一つ、机が二つ有るだけの…。


 溝口は、部屋の明かりを付けないどころか、もの珍しく室内を眺めている紫織の背中でドアを閉め、鍵を掛ける。

「先生!?」


「君の気持ちには気付いていたよ。

 僕が好きだね?」

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