Coffee Bleaching.

かいまさや

第1話

 たなびくあかりをともす街灯たちのつくる通りを、私は萎びた白いシャツたちを色こけたカゴにつめて歩いていた。


 シャッターの閉まって冷たくなった街には、影もなく人々が寝息をたてているような静寂が、したたかに私の背にのしかかってくる。


 せまい雪洞にはいるみたいな、人ひとりがやっと通り抜けられるほどの入口から、青白く淡んだにおいがふき出している。


 私はその前でひくく呻りつづける自販機に紙切れを挿しこんで、数字の一番小さいボタンを押し込むと、ごとっと重みをもったアルミ片が落ちてきた。私はそれをとりあげて、震える誘蛾灯に照らしてみると、それは酷くにがみばしった色をした缶コーヒーであった。私はそれをカゴに投げいれると、釣り銭口に手を突っ込んで、コインを乱雑にポケットにしまう。


 清潔な泡の匂いに包まれて、私が立方体の機械類に圧迫された小部屋に脚を踏み入れると、妙に冷えきった空間に肩がすくんで身震いをする。


 機械をてきとうに選んで硬貨こいん数枚を順番に口に入れると、威勢よく音痴な電子音を奏でるので、保護ビニールの剥げた丸ボタンを押しこむ。すると、彼はどぼどぼと透明な流体を体内へ吐き出しはじめた。


 私は、ならんだ機械類に沿ってねている脆い鉄骨に張られた日焼けたプラスチック板のベンチに腰を下ろし、顔をこちらにむける筒状の銀盃にカゴの中の衣類をほうり投げてから、コーヒー缶のプルタブをひいて、黒く濁った湯も一緒にそそぎ入れた。


 しばらくしてガタゴトと規則的な音を響かせながら、汽水とカフェインの溶液は白妙しろたえを汚しながら中で渦をつくり始める。それをずっと眺める内に、だんだんと瞼の重みがまして、自然と欠伸のもれるようになると、私もくりかえし円をえがく方へ意識をのみこまれてしまった。


 …気がつくと私はひしゃげたツヤ板に自らの上体を任せていて、終了を告げるブザーだけがつづけて空気を貫いていた。


 私は乾いて温かくなった衣類をカゴにかきこんで、外に出た。通りを冷たい風がひなでていたので、私はカゴの中からホカホカのシャツをひっぱり出すと、綺麗な榛摺はりずり色に染まった長袖に腕をとおすと、静寂に沈む商店街を軽やかに歩きはじめた。

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