第4話 システムの罠

 ミツキ博士の研究施設を訪れた翌日、僕は居ても立ってもいられず、自宅の端末からECSに不正アクセスを試みた。これまでシステムに従順だった僕が、初めてそれを裏切る行為に手を染めたのだ。


 アクセスには、高度な暗号解析が必要だったが、ミツキ博士から渡された特殊なコードを使うことで、僕は徐々にECSの深部に潜り込むことができた。


 画面上に広がる無数のデータの中で、自分の感情データを探す。そこで目にしたのは、異常な数値と未承認の操作ログだった。




 「これは一体……?」


 僕の感情データは、ECSの通常のアルゴリズムに従って制御されているわけではなかった。ある特定のプログラムが僕のデータを何度も上書きし、意図的に疲労感や虚無感を植え付けていた。


 さらに深掘りすると、そのプログラムの発信源が、政府の中枢機関である「中央統合局」に繋がっていることが判明した。システムは個々人の幸福を保つためのものではなく、別の目的のために利用されていたのだ。




 「感情の制御」という名目で、ECSは社会全体の管理を目的としていた。だが、そこには一つの「計画」が隠されていた。計画の名は「調和プロジェクト」。その概要を読み解くうちに、僕の手が震え始める。


 プロジェクトの目的は、個々の感情を徹底的に制御することで、人々を従順な存在に変えることだった。つまり、ECSは感情の安定ではなく、支配の道具として設計されていたのだ。




 「これは君が一人で抱えるべき問題ではない。」


 混乱した僕は、すぐにミツキ博士に連絡を取った。彼女はデータを確認すると、深く息を吐き出した。


 「やはり……ここまで来ているとは思っていなかったわ。」


 博士はECSの設計初期段階から関与していたが、ある時期を境にプロジェクトの目的が変質したことに気づいたという。彼女はその真実を暴くために研究を続けていた。


 「カイトさん、これが本当の戦いの始まりです。」




 ミツキ博士は、ECSの根幹にある「調和プロジェクト」の完全な破壊を提案する。しかし、それにはECSに依存する全人類を危険にさらす可能性があった。僕はその選択を前に、これまで以上に深い葛藤と向き合うことになる。

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