第33話
あれからしばらく平和な日々が続いた
と言っても僕はいつも通り忙しく、睡眠時間を削る毎日。いつになったら目の下の隈は取れるのだろうか・・・いやもう一生このままのような気もしてきた
「ロウ坊、そっちを頼む」
「はい」
門番として働きながらダンジョンを監視するのもだいぶ慣れてそつなくこなす
訓練所が盛況なお陰で7階に続き8階も作れたしそのせいかやって来る冒険者の数も増えたような気がする。村も開発が進み、もう街と言ってもおかしくない状態・・・ものすごいスピードで発展していた
《よもやここまで『訓練所』が役に立つとは・・・他のダンジョンも真似しそうな勢いね》
ダンコも嬉しそうだ。少し前までは僕の軽率な行動に怒り心頭だったのに・・・
訓練所がなぜ盛況かと言うとサラさん達が調査しその結果をギルド長に伝えてくれたお陰で安全な場所と認識されたからだ
安全とはもちろん魔物が出ないって事もあるけど、他の人に迷惑をかけないで魔法や魔技が試せる場所と言う意味も含まれている
冒険者は毎日ダンジョンに潜る訳じゃなく疲労が溜まれば休みもする。その休みの日に体を動かすには訓練所は打って付けって訳だ
しかもギルド長は訓練所に行くだけなら入場料を払わなくてもいいようにしてくれた。入口のギルド職員や兵士をダンジョンの三又に分かれる場所に配置し、1階とゲート部屋に行く場合のみ入場許可が必要にしたんだ
今度ギルド長に菓子折でも持っていこうかな・・・それくらい入場料がいらないのはでかかった
《こうなるとやっぱり刺激が欲しいわね・・・人間もかなり増えて来たし・・・》
なんか嫌な予感がする・・・かと言って何をするつもりか聞けないし・・・一体ダンコは何を企んで・・・
「久しぶりだなロウニール」
「は、はい・・・確認出来ま・・・あれ?・・・ラック?」
渡されたギルドカードにはEランク、ラック・シートスと書かれていた。ラック・・・冒険者となりダンジョンを求めて村を出て行った僕の同期だ
「マジで兵士になってたんだな・・・てか制服?似合ってんじゃん」
「あ、うん・・・ラックはなんで・・・」
「そりゃエモーンズにダンジョンが出来たって聞いたら戻って来るしょ?出稼ぎする必要ねえしそれに・・・」
「あ、そうか・・・妹さんが・・・」
「まあな。まっ、今度飯でも行こうや。通っていいんだろ?」
「あ、うん・・・エモーンズ村へようこそ」
「ぷっ、なんだよそれ・・・じゃ、またな」
ああ・・・つい口癖で・・・
にしてもそうか・・・この村にダンジョンが出来たから出稼ぎを続ける必要もないし、村には・・・ラックの妹のネルちゃんがいる
ラックの妹のネルちゃんは寝たっきり起きれない病気にかかってる・・・年々衰弱していきいずれ死に至る奇病『ディジェネレーション』・・・退化って意味らしいけどかなり珍しい病気だ。治せない訳じゃないけど治療するにはかなりお金がかかるらしくネルちゃんにかかりっきりの両親に代わってラックが稼ぐしかないって聞いたけど・・・
仕事が終わり戻るとラックが兵舎の前に立っていた
どうやら僕を待っていたらしくそのまま2人で店に行く事に・・・今度って言ったのに行動派だな・・・
「いきなり悪いな。村の変わり様についていけなくて・・・2人もほとんど外に出てねえから分からなくて、な」
2人とはラックの両親の事だ。ネルちゃんの看病で忙しくて村を見て回る事も出来ないんだろうな・・・
「マジでびびったぜ・・・帰ったら家がねえし・・・まさか引っ越してるとはな」
「区画整理があったからね・・・ところでネルちゃんは・・・」
「相変わらず・・・いや、あまり芳しくねえな・・・」
「・・・そう・・・」
本来なら僕の妹と同期だったはず・・・それなのに・・・
「参っちゃうよな・・・ネルの病気を治せる『聖女様』の治療は無料らしいけどそこまで行くにはネルの体力が・・・かと言って聖女様を村に呼ぶには金がいくらあっても足りねえ・・・クソッタレだぜ全く・・・」
聖女様・・・王都に居る僕達にとっては雲の上の存在・・・なんでもあらゆる病気や怪我を瞬時に治してしまうヒーラーのトップに君臨する人だ。まあ、冒険者じゃないからヒーラーと言う括りは失礼か・・・
とにかくすごい回復魔法を使えるらしく、王都には聖女様に治療してもらおうと人々が毎日のように訪れる。治療はラックの言う通り無料だが、出張してもらおうと思ったら莫大なお金が必要になるらしい
旅費はもちろん、聖女様を護る護衛の費用など諸々計算すると気が遠くなるお金が必要・・・王都に近い街や村ならともかくエモーンズは王国の端に近いから仕方ないのかも・・・もし無料で呼べるなら色んな所がこっちにもこっちにもって声を上げるだろうし・・・
「・・・どうやってもネルちゃんを王都に連れて行くのは無理なの?大きめの馬車に乗せてゆっくり進んでもらえば・・・」
「それも考えたんだけどな・・・大きめの馬車だと目立つしゆっくり行ってたら野盗の格好の的だ・・・かと言って護衛を雇うとなるとそれこそ同じくらいかかっちまう・・・結局呼ぶ方が安全って事になっちまう」
「そ、そっか・・・」
どっちにしろお金がかかるならより安全な方に・・・
けどそれは新人の冒険者が稼げるような金額じゃない・・・ラックは悔しそうに運ばれて来たお皿の上の肉にフォークを刺す
「んだこの肉・・・柔けえ・・・・・・おぉ、マジか・・・口の中で溶ける・・・」
本当は頭を抱えて塞ぎ込んでしまいそうなくらい悩んでるのだろうけど、そんな様子を見せずに肉を口に放り込み笑顔を見せるラック・・・僕が出来る事は・・・
その後、僕はラックに村でどんな事が起きているのか知る限り教えた
そして店から出て解散すると真っ先にダンジョンの司令室へと足を伸ばす
早速ダンコが言っていた刺激・・・7階に『徘徊する魔物』を配置した
さすがに上級だと刺激が強過ぎるって事で中級の上位である『リザートマン』を創り配置・・・中級上位であって見た目も風格もなんだか強そう
リザートマンは素早い動きと強力な尻尾攻撃、それに手に持つ槍での攻撃を主とする魔物で口からは炎を吐き槍の魔技も使う事が出来る。全員がCランクのパーティーでも倒せるかどうか・・・それくらい強い魔物だ
「本当にいきなり攻撃とかしないんだよね?」
《しないわ。創る時にちゃんと徘徊するだけって命じたでしょ?まあ攻撃されたらやり返すけどね》
試しに少し戦ってみたけど手も足も出なかった・・・それほど強いリザートマンが冒険者に襲いかかると思ったら・・・少しゾッとした
でも徘徊するだけなら・・・大丈夫・・・かな?
7階の様子を見ると鍛えたゴブリンとコボルトに混じってダンジョンを徘徊するリザートマンが映る・・・確かに刺激にはなりそうだ
ダンコはその様子を見て満足気にはしゃいでるけど、僕はいまいちはしゃげない・・・なぜならさっきまでラックと話していたことがどうしても脳裏をよぎり・・・
《ロウ・・・変な事考えてんじゃないでしょうね?》
「え?・・・な、何の事?」
《例えばあの人間に大量のお金を渡したり?》
うっ・・・バレてる・・・
ラックが戻って来た理由はネルちゃんの傍にいながらダンジョンで稼ぐ事だ。この村にはダンジョンがなかったし、離れるのは断腸の思いだったはずだけど仕方なく出稼ぎに・・・でも村にダンジョンが出来たからネルちゃんの傍で稼ぐ事が出来ると思い戻って来た
僕がもしラックの手助けをするとしたら・・・ラックが手に入れられるようにダンジョンに大量のお金を配置する・・・でも・・・
《アナタが自分で使うなら別に何も言わないわ。でもわざと個人を狙ってお金を配置するとしたら・・・それは平等ではなくなる・・・》
「けど!」
《気持ちは分かるわ・・・けど不平等は歪み・・・歪みはダンジョンに影響するの・・・ダンジョンブレイクがなぜ起きるか・・・教えたでしょ?》
「まだ中級の魔物はあまり居ないし・・・『家出』する魔物は居ないんじゃ・・・」
《歪みは残るのよ。永遠って訳じゃないけどね。その環境では魔物はストレスを感じて家出したくなる・・・ロウも部屋が汚れてたらストレス感じるでしょ?魔物も一緒。それともロウはダンジョンブレイクを起こしたいの?》
「・・・もし・・・もしだよ?ラックがお金を取れるようにわざと配置したら・・・どれくらいの歪みが生じるの?」
《そうね・・・ここ数年は歪みが残るから中級を配置したらダンジョンブレイクを起こす可能性がかなり高くなる・・・そうなると中級は置けずに下級だけに・・・いくら鍛えた下級を使っても・・・まあ成長の止まったダンジョン扱いされるでしょうね》
成長が止まったダンジョン・・・そうなると冒険者は一気に離れて行ってしまう・・・そうなれば・・・
でも1人の人間の命を救えるんだ・・・いずれ歪みが取れれば再開できるし・・・
「・・・ダンコ・・・頼む・・・人1人の命がかかってるんだ・・・」
《・・・ハア・・・せっかく順調に・・・知らないからね!》
「!それじゃあ・・・」
《好きにすればいいわ。ただしあの人間だけよ?大量の物を作るにはそれなりのマナを使うし別の人間が取ったからまた作る・・・なんて事はしないでよね?》
「分かってる!休みを取ってラックが取りそうな位置に僕が配置して・・・」
さすがにスラミには任せられないよな・・・あっ、ラックがパーティーを組んだらどうしよう?パーティーで山分けになったら足りなくなるし・・・いや、お金を稼ぎたいラックならソロでダンジョンに行くはず・・・そうだ・・・もしパーティーを組んだらその時はその時で考えよう
すぐに渡したいけどさすがに明日じゃなくてもいいか・・・明後日くらいに休みをもらってそこで・・・
かなり前にネルちゃんがまだ自力で歩けた頃・・・僕は何度か見かけた事がある。その時はラックと一緒に楽しそうにしていた・・・またきっとその笑顔が見れる・・・絶対に
僕は一通りダンジョンの仕事を終えると明日に備えて早目に帰ることにした
明日遅刻なんてしたら明後日にもらおうとしてる休みをもらえないかもしれないしな・・・それに・・・明日の夜には大量のお金を作らないといけないし・・・さあ、明日から少し忙しくなるぞ
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