第三十九話 内紛

青い空…


白い雲…


太陽が少し近くに見えるこの場所は、吉備の国の何処かに在ると言われている神聖なる山の頂き…。


空一面を覆う雲海を突き抜けたその場所に、桃太郎達が目指す【鬼ノ城(きのじょう)】は在った。


城の周りには、天を突くようにそそり立つ絶壁が数ヶ所 に存在し、大地に暗い影を落としていた。


先が鋭く尖ったその絶壁は正に鬼の牙…。


誰とでも…


例え神が相手でも戦えると言う意思表示が、その見た目からは感じられた。


その威圧的な空気は人間達だけでなく、言葉を持たない動物達さえも遠ざける…。


不思議なのはその周辺の明るさ…


太陽の光は降り注いでいるはずなのに、城が建つ場所は不思議と辺りよりも暗く見える…。


それは絶壁のせいなのか?


それとも他に光を遮る原因があるのだろうか?


その答えはまだ出ない…


だが約一万もの兵士を抱えていると言われる鬼ノ城からは、暗さのせいも相まって、住民が生活する上で欠かせない【活気】のようなものが全く感じられなかった。


更には…


その暗さの中でも分かる、見る者全ての視線を奪う、美しく芸術的な外観。


全体のほとんどが黒一色に統一された作りは【烏城】の異名を持つ岡山城にも似ている。


城壁や庭の草木も綺麗に整備され、清掃は一室一室の隅々にまで行き渡っている。


美しい装飾や絵柄で彩られた豪華絢爛な御殿は国宝級だ。


内部を彩る障壁画や彫刻は、人が作った芸術品に決して引けを取らない。


…それなのに…


その美しさとは裏腹に、まるで廃城のようなこの静けさは、見る者全てに【冷たさ】と【死】を連想させた…。


…そこに…


突然 姿を現した一体の大鬼。


二本の立派な角を有し…


唇からはみ出した四本の牙は まるで争いの象徴…。


血液のように赤い肌は興奮状態を表しているようで…


隆々たる筋肉と細かい古傷の跡は、これまで潜り抜けて来た修羅場の数を物語っているようだった…。


その腰の両側には金棒が携えられている…。


ズシリ…ズシリ…と…


重たい音を立てながら、傍らの飛びと共に歩を進める赤い鬼。


彼の名は酒天童子…。


つい先程まで桃太郎の故郷を襲撃しようとしていた彼は、飛びの法術であっという間に自身の城へと戻る事が出来ていた。


飛びの力を借りなくても、半刻程も時間を掛ければ帰って来る事は可能だっただろう。


しかし…


ある事を聞いた酒天童子は、一瞬でも早くここに辿り着かなくてはならなかった。


…その理由とは…


酒天童子

「…お待たせ致しました…。

…次期【閻魔大王】様…。」


「…父の名で呼ぶな!!

…この場で殺されたいか?

…酒天童子…!!」


鬼ノ城の御殿…


そこに座したまま待っいた【彼】こそが、酒天童子が急いだ理由…


彼は閻魔大王の子であると共に、独立組織【八部衆】を纏め上げる者…


名は【閻羅天】。


次期【閻魔大王】の座に君臨する者にして、この世界の全ての鬼を束ね、纏め上げる至上の存在。


彼の顔を知らない鬼はおらず…


その言葉に逆らえる鬼は存在しない…


…はずだった…。


閻羅天

「聞いたぞ? 酒天童子…

貴様、人間の侍を狩って回っているそうだな?

人間との関わりを避け、仲間とだけ寄り添い合って生きてきたお前達が突然どうした?

刺激でも足りなくなったか?」


御殿内部にある、接待用の茶室…。


広過ぎず、かと言って狭くもない落ち着いた空間。


中央には丸太をそのまま仕様した座卓が用意されており、室内は話に集中できるよう掛け軸や一輪挿しの花などで質素に飾られていた。


庭は見えるが、昼間だと言うのに夜のように暗い…。


室内の明かりだけが、無理なく相手の顔を認識できる程度に灯されていた。


…当然…


…酒天童子の顔も…


その表情の変化や些細な仕草を見逃すまいと、閻羅天の眼光の鋭さが増す。


酒天童子は閻羅天の眼差しに気付いて警戒心を強め、身動きを取る事が出来なくなっていた。


桃太郎と大して変わらない年齢とその容姿で、自分の数倍はある酒天童子に勝るとも劣らない威風堂々たる様を見せる閻羅天。


額から突き出た一本の角は、まるで気高さを現した王冠のよう。


部屋に入ってきた酒天童子を正座で迎えたその美しい姿勢も、対応も、良くも悪くも閻羅天の器の大きさを表していた。


普段なら眼前に閻羅天がいる事さえ異例の事態。


直接話せるとあれば尚更 異例だろう。


普通なら萎縮してしまう。


跪き、頭を垂れ、その言葉に全て「はい」で応える他ない…。


酒天童子はそうするべきだった。


…そうしなくてはならなかった…


しかし…


閻羅天の言葉に即答 出来なかった酒天童子。


彼は表情を僅かに険しく歪め、少しだけ強く歯を食い縛った。


…ほんの一瞬の反射的反応…


見逃しても可笑しくない変化。


しかし…


その変化を、閻羅天は決して見逃さなかった。


酒天童子

「…狩りだなどと人聞きの悪い…。

…私はただ、自らに降り掛かる火の粉を払っただけにございます。」


「嘘はお止しなさい!」


まだ着席しようともしない酒天童子を咎める声がする。


どからともなく聞こえてきたその声の主は、八部衆 最強にして閻羅天の付き人…


【天王】…。


彼は決して隠れていた訳でもない。


ずっと【そこ】にいた…。


それなのに、今まで誰も存在に気付く事が出来ず…


まるで影の中から現れたのではないかと疑ってしまうくらい静かに…


そして突然に酒天童子の視界に現れた…。


天王

「…心が邪念に囚われている…。

…欲にまみれ、地獄の亡者共のように汚泥の中から手を伸ばしている貴様の姿が、私には見える…。

例えどんな言葉で自分を偽ろうと…

私に虚偽は通じないぞ…?

酒天童子…!」


酒天童子

「天王…ッ!!

…貴様…ッ!!」


いつの間にか閻羅天の隣に立っていた天王に露骨な怒りの表情を見せ、その鋭い眼光で睨み付ける酒天童子。


唇の隙間から覗く上下の歯は彼の怒りを表すように、まるで万力のように力強く噛み合わされていた。


何故そこまで感情的になるのか?


それは彼らが、過去に八部衆入りを賭けて争った友人同士だったからだ。


しかし、結果は惨敗…


酒天童子が天王に勝てた事は一度としてなく、八部衆の座も奪われた…。


そして…


天王の八部衆入り以来、彼らの関わりはプツリと途絶えた…。


それからの酒天童子の生活は荒れ…


気が付けば鬼ノ城に流れ着いていた…。


そもそも酒天童子は天王の事が嫌いだった…


天王の能力は詳細不明だが…


まるで神々でも相手にしているかのように心を見透かされ、まるでそれが神の意思であるかのように従わされる…。


気が付けば彼の意のままになっている…。


そうなる事を知っているが故に、久しぶりに天王と再会してしまった酒天童子は、心を閉ざしそうと思ってはいた。


だがどうしても怒りが勝り、表情にまで出してしまったのだ。


もとは同格だった天王が格上として目の前に立っている…。


そして心の中を見透かして来る。


ほんの僅かに微笑を浮かべた口元。


それは酒天童子の瞳には、まるで見下すように映っていた…。


おいつき、追い越そうとしていた相手に見下されるなど、これ程に腹立たしい事が他にあろうか?


だが言葉の角突き合いも天王の方が一枚上…


酒天童子の「感情に流されまい」と葛藤する意思を察した天王は…


既に苛立ちを隠しきれずにいる酒天童子を追い詰めるべく、その言葉を更に鋭く研ぎ澄ました…。


天王

「キミはこの城で何かを計画しているな?

…それはキミの意思か?

…それとも温羅の意思か?」


ほぼ全身を覆う外套。


その顔の大部分を隠した外套の一部。


天王の外見で分かる事は、その二本の大きな角と…


まるで女性のものと見間違えてしまいそうな程に艶やかで美しい口元だけ。


その口から吐き出される言の葉は鋭く尖った刺を持ち、狙った相手の心を抉り、聴く者が望まない感情を引き出した…。


天王

「それは必要な事か?

それとも、お前の心の未熟さが招いた無用のものか?」


全てを知っているような…


何を言っても否定されそうな…


【全知全能】とも表現できる天王の気配に、酒天童子の心は乱れ、怒りは抑えきれない程の暴走を始めようとしていた。


天王

「…もしくは…」


自分が疑われるだけなら、酒天童子にとっては想定内だった…。


だが…


酒天童子が最も隠そうとしている【それ】に天王が気付いてしまいそうになった時…


天王

「…この城に在る【何か】がキミにそれをさせているのか?」


酒天童子の中で何かが弾けた…。


まるで誰かに背中でも押されたかのように、自らの武器に手を掛けようとする酒天童子。


彼の目が物語っている…。


消さねば…


隠さねば…


【それ】は在ってはならない未来だ…


【目的】のために…


この二人は消さねばなない…


今…


この場で…!!


…感情に流されるように、腰の金棒に触れようとしていた酒天童子の手。


…酒天童子が取り返しの付かない判断をしようとしていた その時…


それまで一言も発する事なく、ただ成り行きを傍観していた飛びが、初めてその口を開いた。


飛び

「…天王様…。 …お待ちを…。」


唐突に天王の言葉を遮るように割って入って来た飛び。


酒天童子の後方にいた彼は、まるで観察するように全員の反応を見ていた。


…そう…


天王の事さえ…


だから気付けたのだ…


天王の狙いも…


それを阻止する方法も…。


飛び

「…酒天童子様は決して私利私欲の為に騒ぎを起こされる方ではございません。

全ては我ら鬼の未来のために…。」


酒天童子では閻羅天にも天王にも勝てない…。


酒天童子が負ければ鬼ノ城の鬼達に未来はない。


例え八部衆の軍門に下っても、望んだ結果が得られる事は無いだろう。


勝てない戦いをしてはならない。


【目的】のためには、何としても酒天童子だけは守らなくては…。


そう願う強い想いが、飛びに【それ】を言わせた。


飛び

「…それに八部衆を脱走した【夜叉王】をまだ取り押さえていないと伺っております…。

もしも御用が酒天童子様と人間のいざこざについてであれば、それは我らが将、温羅様が直々にご判断されるはず。

処罰があるのならば、それを下さなくてはならないのも、また温羅様の役目。

今は酒天童子様の事よりも、どうかご自身のすべき事を優先致して下さいませ。」


片方の拳と片方の膝を床に着け、視線を落としたまま、飽くまで控えめに自身の意見を述べた飛び。


しかし、その言葉の節々に散りばめられた言葉は閻羅様の神経を逆撫で…


それまで天王に任せていた問答に、半ば無理矢理に引き摺り込んだ。


閻羅天

「…ほぅ…。

…つまり貴様は飛びの分際で、余に【帰れ】と申すか?」


自分の右隣に寝かせていた愛刀を手に取った閻羅天。


彼はゆっくりと立ち上がると飛びの元へと歩み寄り…


鞘に納められたままのそれを左手に持ち変え、静かに抜刀した。


閻羅天

「わざわざ出向いた余に茶も出さず…

城主である温羅さえも顔を出さず…

余の話を遮り…

黙って立ち去れだなどとは言語道断…

…立場を弁えろ…

一介の飛びごときが…!」


スラリと、小さな金属音を立てて抜かれた閻羅天の刀。


その刀身に妖しい輝きを宿したそれは鬼に伝わる伝説級の神剣…


銘は【千年地獄(せんねんじごく)】…


肉体もろとも魂を斬り裂き…


死後も、未来永劫 消える事のない痛みを与え続けると言う…


それ程の力を持った剣の刃先を、閻羅天は目の前で跪く飛びの首もとに当てた。


謝罪も…


罪の意識も必要ない…


償おうとする誠意を見せるつもりがあるのなら死を選べ…


それだけが自分の高ぶった感情を抑えてくれるのだと、身も凍るような閻羅天の視線が言っていた。


閻羅天

「…自害しろ…。

この【千年地獄】で自らの首を斬れ。」


千年地獄が持つ力は、当然 飛びも知っていた。


伝説と呼ばれる程に名高い刀だからではない。


斬られれば決して癒えぬ苦痛を永遠に味わう事になる、最強の刀だからだ。


閻羅天

「…自ら【そこ】に命を捧げろ。

…余に許しを乞うのなら…

これ以上、余の手を煩わせるな…。」


その刃を受け入れると言う事は、これから死後もその痛みに耐えていかねばならないという事…


それがどれ程の苦しみなのかを想像も出来ないのか?


それとも自分の命など、主のための道具にしか過ぎないと思っているのか?


飛びは顔色一つ変える事なく…


痛みに耐えようとする仕草も見せず…


無関心としか言い様の無い躊躇いの無さで、自らの首を千年地獄に捧げた。


まるで牡丹の花のように落ちた飛びの首…。


首を失って尚、閻羅天に対して跪く肉体。


その散り様は、飛びに怒りを感じていた閻羅天からしても天晴れ。


自らの感情を圧し殺し、自身の命よりも義務を優先した彼は、正に飛びの鏡だった。


しかし同時に…


あまりにも美し過ぎるその最後に、まるで作り物のような違和感もまた感じていた…。


一つの命が、今 終わりを告げた…


だが…


その場にいる誰もが表情を変えず、何の感心も無い冷たい目線で飛びの骸を見つめている…。


閻羅天は背後にいる天王に千年地獄を向けると、天王は懐から取り出した懐紙で千年地獄に着いた飛びの血を拭い去った。


そして、ようやく刀を鞘に納めた閻羅天。


彼は酒天童子に歩み寄り、天井と床程も離れた彼に囁いた。


閻羅天

「…お望み通り、夜叉王を引っ捕らえる事を優先してやる。

…直ぐに戻る…

…その時またこのようなふざけた真似をすれば…

…次は貴様の命が無いものと思え!」


視線を合わせようともせず、ただ自分の意思だけを淡々と言い放った閻羅天。


彼は飛びの最後の願いを聞き入れ、酒天童子に手を出す事なく鬼ノ城を後にした。


…しかし…


閻羅天は何も見抜いていない訳ではない…


…何も疑っていない訳ではない…


自ら斬り落とした飛びの命…


あまりにもアッサリと…


何の躊躇も無く捨てられた命…


例えどんな教えを受けたとしても…


ああまで無感情に自分の命を捨てられる生物などはいない…。


ああまで簡単に生きる事を諦められる生物はいない…。


閻羅天

「…天王…。

…【アレ】は何だ?

我々が知る飛びとは違うのか?」


飛びの事を【アレ】と表現した閻羅天。


その表現には理由があった…。


自らの手に残る感触も…


斬り口から流れ出た血液も本物だった…


しかし…


誰かを殺めた後に残る【死の匂い】が感じられなかった…。


命が終わりを告げた時、必ず閻羅天の鼻を突くその匂いは…


甘く…


切なく…


とても儚いものだった…。


一瞬だけ漂って直ぐに消えるそれは、血の匂いとは明らかに違う…。


だからとても嗅ぎ分け安い…。


それが、飛びを殺した時だけは感じ取る事が出来なかった…。


故に閻羅天が出した答えは、あの飛びが生命体ではないと言うもの。


しかし、肉体を持ちつつ命を持たない、そんな存在は閻羅天でさえ聞いた事がない。


天王ならばその答えを知っているはず…


そう直感した閻羅天は、気が付けば天王に答えを求めていた。


しかし、帰ってきた答えは…


閻羅天の想像を越えた意外すぎるものだった。


天王

「…アレは…

…恐らく【実態分身】の一種です。」


【実態分身】…


それは忍が使うような分身の術とは違う。


残像ではない…


気を練って作り出した、人の形をした作り物とも違う…


そこには確かに【個】が存在し、自分の意思を持ち、自分が選んだ通りに動く…。


当然、個人個人の肉体には細胞があり、血が流れ、それぞれが固有の魂を持つ…。


天王

「…恐らく彼らには、元となる存在がいます。

その存在が何かをして、自らの分身を【産み出して】いる。

それが法術なのか、そう言う機能を有したからくりによる物なのかは現時点では分かりませんが…。

それでも纏めてしまえば、アレは【外法】にとても近い手段を使って造られたものですよ。」


そして閻羅天は理解した…


【死の匂い】がしなかった理由…


それは【死んでいなかった】から…


あの飛びは【死んだ】が【死んでいない】…。


固有の肉体と魂と意思を持っていても、同じ存在から生まれているのなら、その判断基準は、元となる人物の性格に片寄る。


死んだ飛びは分かっていたから躊躇わなかったのだ。


自分が死んでも、同じ考えを持った自分がまだいる。


それも大勢…。


それらが全滅しない限り…


或いは本体となる人物が死なない限り自分は終わらない…。


それはいったいどんな気分なのだろうか?


自分の存在価値を感じているのだろうか?


夢や希望は無いのだろうか?


…生きたいとは、思わないのだろうか…?


それらの疑問が閻羅天の中にも無かった訳ではない。


それでも…


何よりも他人の策に乗せられたと言う事実が、閻羅天の自尊心を深く傷付け、激しい怒りを呼び起こしていた。


閻羅天

「…つまりこう言う事か…。

余は自分で言った以上、酒天童子を今から斬る事は出来ない…。

だが、あの飛びの代わりは直ぐに準備できると…。」


怒りに手を震わせる閻羅天。


だが誰かの命と引き換えにした約束を破る事も彼の自尊心を傷付けた。


どこに向ける事も出来ない怒り…


それが閻羅天の心の中で暴れまわり、彼自身をこの上なく苦しめていた。


閻羅天

「…天王…。

貴様…気付いていて言わなかったな?」


自分の不機嫌を天王に向けた閻羅天。


見られただけで、目に見えない何かに全身を貫かれそうな恐怖を感じる。


それは天王とて例外ではない…


…普段であれば…。


しかし、今は違う…


天王

「…閻羅天様は何でもかんでも私に答えを求め過ぎかと思いましたので…。

たまにはご自身で答えを導き出すのも、また良い経験かと思いまして。」


軽快な口調でスラスラと言い返す天王。


その様子に違和感を覚えた閻羅天は、言い返しながら何かを準備する天王の手に気が付いた。


直後…


何かを頭部に取り付けられた閻羅天。


すると、彼の身体は見る見る内に姿を変え…


角を失い…


尖った耳も丸くなり…


まるで人間のような見た目へと変化していた。


閻羅天

「こ、これは!」


天王

「【制御装置】です。

それが無いと、あなた様は歩いただけで草木を枯らして大地を砂漠へと変えるでしょう?

人間の姿に化ける機能を付けたのはついでですが…

夜叉王を探すにはそのくらいの変装をしても宜しいかと…。」


そう言ってニヤリと含み笑いを返す天王は、閻羅天から見ると とても憎たらしかった。


しかし、それでも手は出さない…。


天王を相手にするといつもそうだ。


とてもやりにくい。


見透かされたくない自分を見透かされ、痛い部分を突かれた気分になる。


かと言って、取り繕おうとすればする程、逆に泥沼に足を囚われていくように次々とボロを出す事になる。


反論…


または言い訳は、天王に対しては禁。


証明したい事があるのならば、それは行動で示すべきだと言われているようで、閻羅天はいつも言いたい事が言えなかった。


閻羅天

「…まあ良い…。

これから余が統括する事になる世界に花の一つも生えていないのでは確かにつまらん。

この人の姿も、慣れる気がしないが何とか扱ってまてせよう。」


そう言って、再び歩き出した閻羅天。


その後ろ姿は見た目の大きさよりも遥かに大きく…


まだ元服も迎えていない子供とは思えない程に、とても頼もしく感じられた。


そんな閻羅天を映した天王の瞳には深い喜びと…


同時に、どんな不利な状況にも弱音を吐かない彼の性格に対する危険性を感じていた。


天王

『…万が一…

…もしも本当に万が一、この方を脅かす存在が現れたのなら…

例え私の首が刎ねられようとも…

必ずこの手でお守りする…!!』


それぞれの決意を新たに鬼ノ城を去った閻羅天と天王。


二人が桃太郎と出会い、刃を交える事になるのは、この数日後の事となる…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る