第4話

森本もりもとはたけ伊織いおりは、寂地山じゃくちさん犬戻いぬもどしの滝付近にJeepを停め、そこからは観測機材を担ぎ、あらかじめ定めておいた観測ポイントへと向かう。

畑伊織もバックパックいっぱいに荷物を詰めているが足取りは軽く、今回の観測に心をおどらせているようだ。

山鳴り発生の一報は、各省庁に届いているはずだが、混乱を避けるためか入山規制はされておらず、何人かの登山客とすれ違う。

「先生はどうして助手を雇わないんですか?これだけの機材を毎回お一人で運ばれているんでしょう?」

森本の少し後ろを歩いていた畑伊織が、森本にたずねる。

「普段はこれほど機材は持ってこないよ。地震研究だと、地震が起きた直後に震源地へ赴いて調べるだけだしね。あと自分一人で行動するのは、ただの経費削減だよ。確かに研究所の学生たちを連れてくれば、荷物は運んでくれるし楽だけど、ホテル代もその分かかるしね。あとやっぱり一番は気楽でいいからだね」

森本は答えた。

思い機材を背負っているが、森本は慣れた様子で山を登っていく。

途中途中、畑伊織の方を向いて様子を確認する。

「先生、心配しないでください。私は大丈夫です。こう見えて、高校時代にボルダリングをやっていたんですから。体力には自信があります」

森本の気遣いを察して、畑伊織は軽く微笑む。

「ボルダリングと登山では、体の使い方も違う。それに昨日の雨の影響で、地面が泥濘ぬかるんでいる。どんな時も、常に周囲に気を配るのが現地調査なんだ。調査に夢中になって自分たちが死んでしまったら、意味がないしね」

「確かにそうですね。でも、私に気を取られて先生が怪我しないでください」

「私が怪我をする分には構わないが、親友の娘さんを怪我させるわけにはいかないよ」

「すいません。急に無理なお願いを言ってしまって」

「いや、いいんだ。たまには助手のいる調査もいいもんだ」

森本は畑伊織の方を向くと、優しく微笑んだ。

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