第5話

森本もりもとはたけ伊織いおりは、寂地山じゃくちさんの中腹にある第一観測ポイントに辿り着き、観測機器の設置に取り掛かる。

地震計に定点カメラ、地温計、フィールドレコーダーをバックから取り出す。

すると森本は、突然近くの木に登り始める。

「先生、何をしているんですか?」

畑伊織は驚いて声を出す。

「遮蔽物が少ない場所に、ソーラーパネルを設置するんだよ。そうすれば機材のバッテリーも充電出切るから、何かと役立つんだ」

森本は機材を担ぎながらも、どんどんと木を登っていく。

そして陽当たりの良い枝に、手際よくソーラーパネルを取り付けると、両手足を器用に使い、簡単に下りてきた。

「ケーブルを繋いだし、これで大丈夫。あとは山頂にも同じ物を設置するだけだ。今日の所は、それで終わりだ」

畑伊織は、森本の手際の良さに感嘆する。

「その後はどうするんですか、先生?」

「ホテルに戻って、温泉にでも入ろうかな」

「えっ?」

畑伊織は目を丸くした。

「この山でキャンプをして、一昼夜、ただただ只管ひたすらにデータを集めると思ったかい?緊急の調査の場合や、平成へいせいの時代だったらそうだったんだろうが、今は機器を設置して待つだけなんだ。データもリアルタイムで私のパソコンに送られてくるからね。一日一回、機材の点検を出来れば、それで十分さ。正直、今回の山鳴りが喫緊の問題を引き起こすとは、考えられないからね。現地調査の名目を借りた、小旅行だと思ってくれ」

森本は畑伊織をなごませようと笑いながら言う。

「そうなんですね。良かった。私、てっきり何日もシャワーも浴びれないんじゃないかと思って覚悟してましたから」

屈託くったくのない笑顔で畑伊織も話す。

「さあ、日が傾く前に山頂に向かおう。それと、ここからは念のために記録用のカメラを起動させておこう。もしかしたら急に山鳴りが発生するかもしれないからね」


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