第5話 私の彼氏はいっつも奥手……
「……あいつらの方がイチャイチャしてるよな」
「んね。よく朝からイチャイチャできるもんだよほんと」
「俺らもするか?」
「……バカ言ってないで早く行くよ」
匠海にジト目を向ける私は、わざわざ離れた場所にある左手で匠海の手を掴んで、2人を追いかける。
――罪悪感を胸の奥に封じ込めながら。
私と祐希は一線を越えた。
兄弟としてもそうだし、1人の人間としても一線を越えてしまった。
自分たちに彼氏と彼女がいることはもちろんお互いに知っていた。
祐希と一緒に暮らす前からも、暮らしたあとも。
そして、匠海にも瑞月にも私たちが一緒に暮らすことを公言していた。
――私たちの一線を守るために。
祐希と暮らしてから分かったことがひとつある。
どうやら私は、祐希に未練があるらしい。
祐希がお風呂を出た後。祐希がご飯を食べてる時。祐希とすれ違う時。
私は無意識に彼を目で追っていた。
……自分でも、それが悪いことだということは分かっている。
けれど、我慢できなかった。
『キスからが浮気かな』
祐希のその言葉が私のタガを緩ませてしまった。
祐希も私と同じことを思っているんだ。
祐希も私と同じラインなんだ。
そう思った瞬間、私は祐希のことを誘っていた。
もちろんコンビニでゴムを買おうとした時も思い留まった。
……でも、祐希のポケットに財布が2つもあったら私だって期待しちゃうじゃん……。
結果的には祐希も私の部屋に来て、求めてきたわけだし……。
「美結?大丈夫か?」
突然クイッと私の手を引っ張ったのは祐希――ではなく、匠海。
「ん?全然大丈夫だけど、どしたの?まだ2人がイチャイチャしてるの?」
「いやまぁそれもそうなんだけど……複雑そうな顔してたからさ」
「え、そんな顔してた?」
「自覚ないのを見るに……祐希となにかあったか?嫌なことされたのなら怒ってくるけど」
もしかしたら私の彼氏は心を読める能力を持ってるのかもしれない。
けれど、当然このことを言えるわけもないので、
「全然何もされてないから安心して!なんなら家の仕組みがわかってなくて私が迷惑かけてるぐらいだもん……」
「その家庭によって色々変わるところもあるからな。手伝えることがあったら言ってくれよ?」
「うん!ありがと!」
心配そうな瞳を落としてくる彼氏に、満面の笑みを披露する。
そして話を逸らすようにチラッと祐希のことを見た。
「それにしても、学校前なのによくイチャつけるよね……」
「あいつらに羞恥心なんてないんだろ。ほっとけほっとけ」
「実は匠海も羨ましかったりする?」
「……どこをどう見たら羨ましいと思う?」
「ん〜女の勘ってやつかな?」
「羨ましくねぇよ。美結も疲れるだろ?朝からイチャついたら」
「どうだろうねぇ〜」
「なんで誤魔化すんだよ……」
実は羨ましかったりするのは内緒。
祐希と付き合ってる時も、お互いがお互いに奥手過ぎた結果、あまりイチャつくことなく自然消滅した。
そんな過去があるからこそ、今目の前でイチャついている2人が羨ましかったりもする。
(……なんで私の彼氏はどの人も奥手なのかなぁ……!)
悶々と思案する私なんて他所に、チラッとこちらを見下ろした匠海は――
「……まぁ、恋人繋ぎぐらいなら……いいかもな?」
ただ握るだけだった私の手に指を絡ませた。
「……不意打ちはずるくない?」
「お?珍しく照れてるな?」
「こんな事されたら誰だって照れるでしょ……!」
「んならこれからずっと不意打ち狙うか〜」
「心臓に悪いからやめて!?」
「えー」
「えーじゃないよ!」
ギュッと握り返す私は熱くなった頬を横に振る。
好きという気持ちを胸に秘めながら。祐希の視線に罪悪感感じながら。
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