第7話
ここ数年、日曜日が終わり、月曜日の朝が来るのが憂鬱だった。
特に綾子との間にいろいろと問題が起き始めてからは、週末もゆっくり休めなかったから尚更だった。
けれども、昨日の夜は月曜日が来るのが待ち遠しいような気がしていた。それは、呼吸を変えることで、明日はどんな波動を感じられるのだろうという期待感と、また響子の笑顔に会える、という思いもそこには混ざっていたのかもしれなかった。
目覚ましが鳴る前に目を覚ました亮は、久しぶりに軽やかな気持ちで身支度を整えた。
玄関を出る時、鏡に映る自分の顔が無意識のうちに微笑んでいることに気づいた。
しかし、その期待感は通勤電車に乗ってしばらくすると徐々に崩れ始めた。
混雑した車内の蒸れた空気の中で、早く外の空気が吸いたい、この中ではさすがに深呼吸もできないなと思っていると、いつもとは違う場所で徐々に電車の速度が落ち始め、ついに駅ではない場所で止まり、車内アナウンスが流れる。
「大変申し訳ございません。人身事故の影響により、現在運転を見合わせております。」
車内が一瞬にして騒然となる。スマートフォンを取り出し、何かを検索する人々。イライラした表情で舌打ちする会社員。不安そうな顔で時計を見つめる学生。
亮は周囲の焦燥感に飲み込まれそうになりながら、自分を落ち着かせようとした。
「こんな時こそ、ゆっくり吐いて、冷静になろう」
しかし、30分が経過しても状況は改善せず、亮の心にも焦りが忍び寄ってきた。
「今日の午前中の重要な会議に間に合わないとちょっとまずい...」
とり急ぎ、電車の人身事故に遭って遅れること、代理で誰か会議に出てもらって、記録を録るよう部下の佐藤にメールで連絡をする。
ようやく電車が動き出した時には、すでに予定の時間を大幅に過ぎていた。
会社に到着すると、そこにはさらなる混乱が待っていた。
「木村課長!」慌てた様子で駆け寄ってきた佐藤が叫ぶ。
「サーバーがダウンして、すべてのデータにアクセスできないんです!」
なんということ。朝のミーティングは遅刻で台無しにし、今度はこれだ。いつもはムードメーカーの佐藤さえも切羽詰まった様子で、オフィス中が落ち着かない雰囲気に包まれている。
そんな中、部長が厳しい表情で近づいてきた。
「木村、どうなってるんだ?未来ファイナンスの件、間に合うのか?」
「申し訳ありません。今朝の電車遅延と、今のサーバートラブルで...」
「何があったにしろ、何が何でも今日中に間に合わせてくれよ!」
部長の怒気を帯びた声が、オフィス中に響き渡る。周囲の社員たちの視線が、一斉に亮に向けられる。
その瞬間、亮は自分が完全にネガティブな波動に飲み込まれていることを痛感した。
朝の期待感は跡形もなく消え去り、代わりに緊迫した現実に息苦しくなるようだった。
そう思った瞬間、亮の脳裏に、あの音声メールの言葉が蘇った。
「緊張をほぐす、ストレスをなくす、リラックスするには、まずはゆっくり吐くことが大切です」
「ゆっくり深い呼吸を心がけて、特にストレスを感じたとき、緊張したとき、集中力が必要なときには、意識して行ってみてください」
そうだ。今こそ、それを実践すべき時なのかもしれない。
亮は深呼吸をし、自分の中に渦巻くネガティブな感情を見つめ直した。
そして、ふと気づいた。響子の姿が見えない。
しかし、彼女なら、きっと冷静に対応しているはずだ。その思いが、亮に小さな希望を与えた。
「よし、まずは落ち着いて一つずつ問題を整理しよう」
亮は静かに、自分を抑えるように、デスクに向かった。
波動を整える方法を、これからしっかり学んでいかなければならない。そう思いながらゆっくり深く息を吐くごとに、トラブルが重なってパニクっていた頭も心も少しずつ鎮まっていくのを感じていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます