第6話
「こんばんは。今日は一日どんな波動を感じましたか?」
家に帰って転送しておいたメールを開く。
最初の問いかけに今日一日の間に感じた様々な波動を振り返る。
街の波動、御苑に入った時の波動、そして巨樹の森の波動。
響子との間で伝わり合う波動も、一日のうちで刻々と変化していたことが蘇る。
「今日から、自分の波動をどのように整え、高めていくか、具体的な方法について少しずつお話しします。
そこで、まずはあなたに質問です。
誰にでもできて、誰もがいつもやっているけれども、ほとんどの人が、波動を整え、高めることとしてやっていない、使えていないことは何だと思いますか?」
日々の生活の中で、当たり前すぎて意識していないこと?何だろう?
「わかりましたか? そう、答えは、『呼吸』です。」
その瞬間、亮は自分の呼吸に意識を向けた。確かに、普段はほとんど意識することもない。
「誰でも意識せずにできますし、寝ている間でも自然と呼吸をしていますが、呼吸のリズムはまさに波動そのものであり、すべての波動を生み出すものでもあるのです。
そう言う意味で、呼吸の状態は、ほぼイコール波動の状態と言えるでしょう。」
亮は新入社員の頃の事を思い出した。初めてのプレゼンの直前、緊張で手が震えて、息をするのも苦しかったが、きっと極端に呼吸が浅くなっていたのだろうし、その時の波動は不安定だったに違いない。
「誰でも緊張すると呼吸が浅くなりますが、実は現代人は総じて呼吸が浅いのです。そして、呼吸が浅いことで、心の安定も集中力も損なわれてしまうのです。」
そう言えば、最近集中力が続かないと感じることがよくあるが、もしかしたら、それも呼吸が関係しているのかもしれない。
「ですから、ゆっくり深い呼吸をすることが大事ですが、深呼吸というと、ほとんどの人が深く吸うことに意識がいきますが、実は吐く息に意識を向ける方が重要なのです」
「と言うのも、吸う息は交感神経系を刺激し、心拍数が上がり、どちらかというと緊張状態を作るのですが、吐く息は副交感神経系を働かせ、心拍数を落ち着かせ、リラックスさせるのです。試しに、ゆっくり深い呼吸をしながら、左手首に右手の親指を当てて脈を取ってみてください」
心拍数なんて、運動でもしない限り一定だと思っていたので、「本当に?」と思いながら言われた通りに脈を取ってみる。
時計の秒針の音と比べながら脈を感じてみると、確かに吸う時は速くなり、吐く時にはゆっくりになっている。自分の身体なのに、こんなことも知らなかった。
「どうでしたか?吐く時に少しゆっくりになりましたよね?」
「ですから、緊張をほぐす、ストレスをなくす、リラックスするには、まずはゆっくり吐くことが大切です。具体的には、鼻から吸って、吸った時の2倍の長さでゆっくり吐いてみてください。」
亮は、その場でゆっくりと吐く息を意識をしてみた。
驚いたことに、たった数回の深呼吸で、体が少し緩んでいくのを感じた。
「こうやって呼吸を意識的に行うことだけでも、自分の波動を整え、高めることができるのです。まずは日常的に、ゆっくり深い呼吸を心がけて、特にストレスを感じたとき、緊張したとき、集中力が必要なときには、意識して行ってみてください。」
亮は、明日からオフィスでこの呼吸法を実践してみようと思った。波動を整えることで、仕事のパフォーマンスも上がるかもしれない。そう考えると、少し楽しみになってきた。
「呼吸は誰もが意識せずとも24時間止まることなく、それこそ生まれてから死ぬまで、ずっと続けてやっていますが、それだけに、呼吸は人生すべてに影響していて、呼吸こそが、『人生を変える重要な鍵』なのです。」
「なので、呼吸と一口に言っても、非常に奥が深く、簡単にはお伝えし切れませんし、実際に実践してもらうことも大事なので、また少しずつステップを踏んでお伝えしていきます。それまでの間、日常生活の中で意識的に呼吸を行い、自分の波動の変化を感じ取ってみてください。きっと、新しい発見があるはずです。」
音声が終わり、亮はしばらくの間、静かに座ったまま、呼吸に意識を向けていた。
呼吸という、当たり前すぎて見過ごしていたものが、こんなにも大切だったなんて。
明日からの日常が、少し違って見えそうな気がした。
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