第4話

「こんばんは。今日一日、波動に意識を向けて、いろいろ感じながら過ごしてみましたか?


自分の視点、心の状態、感じ方を変えることで、いろんなものが今までと異なって見えたのではないでしょうか?


そう、自分の状態が変われば、周りの世界の見え方も変わってくるのです。


ですから、昨日の問いの答えにはもうお気づきかと思いますが、

誰にでも一番変えやすい波動、それは『自分自身の波動』なのです。


それがこれが、『人生を変える秘密』の入り口なのです。


まだ入り口か、と思われるかもしれませんが、これはあなたにとって、とても大きな転機です。


なぜなら、あなたはこの入り口に立ってようやく初めて、自分の人生をハンドリングできるようになり、本当の意味での自分を取り戻すことになるからです。


おそらく、ほとんどの人は、大人になれば、自分のことは自分で決めて、自分の人生は自分で歩んでいると思っています。ですが、本当にそうでしょうか?」



どういうことだ?

オレは今まで目標を立て、大学だって、就職先だって、結婚だって、離婚だって、自分で決めて生きてきたぞ?


亮は一瞬、自分のこれまでの人生を否定されたようで、小さな苛立ちを覚えた。しかし、その感情が湧き上がったこと自体に気づき、深呼吸をした。「これも波動の一つなのかもしれない」と思いながら、再び音声に耳を傾けた。



「多くの人は、自分で決断していると思っています。しかし、その決断の背景にあるものを考えたことはありますか?例えば、進学先を選んだ時のことを思い出してください。」


亮は高校時代を思い出した。確かに自分で志望校を決めたが、その選択肢は偏差値や就職率、親や先生の意見に大きく影響されていた。



「就職先も同様です。給与、知名度、安定性...これらの基準は、本当にあなた自身が決めたものでしょうか?それとも、社会の『常識』という波動に影響されたものでしょうか?」


自分の就職活動を振り返った。確かに、そんな『社会的評価』を基準にして会社を選んでいた。「ここなら、親や友人に胸を張れる...」という理由で、今の会社を選び、内定をもらって飛び上がって喜んだことを思い出し、苦笑した。



「ましてや、仕事でもプライベートでも、相手のいることになれば、自分で決めて、自分の思い通りになることなど、ほとんどなかったのではないでしょうか?」


綾子との出会い、結婚、離婚に至るまでの日々が脳裏を巡り、胸が締め付けられる思いがした。



「日々の生活の中でも、私たちは知らず知らずのうちに周りの波動に影響されています。例えば、こんな経験はありませんか?」


音声は続いた。


「朝、晴れやかな気分で出勤したのに、電車の中で不機嫌そうな人々に囲まれているうちに、自分も何となく気分が落ち込んでしまったり、」


亮はこれまでの朝のことを思い出した。確かに、いつもより気分よく家を出ても、満員電車に揺られているうちに、なぜか疲れた気分になるようなことはしょっちゅうだった。



「または、職場で上司の機嫌が悪いと、自分まで影響されて萎縮してしまったり、逆に、周りが活気に満ちていると、自分も元気になったり、」


つい先日の会議を思い出す。部長の機嫌が悪かったせいで、自分のプレゼンがうまくいかなかった。でも、その後の飲み会では、みんなの楽しそうな雰囲気に乗せられて、普段話さない同僚とも会話が弾み、ついつい飲み過ぎてしまったっけ。



「これらはすべて、周りの波動があなたに影響を与えている例です。多くの人は、この影響に気づかないまま、ただ流されて生きています。」


亮は、自分もその「多くの人」の一人だったことに気づき始めていた。


「しかし、あなたは今、大切な気づきを得ました。波動の存在に気づき、自分の波動を意識し始めたのです。これが、真の意味で自分の人生をハンドリングし始める第一歩なのです。」


亮は深く頷いた。確かに、昨日から波動を意識し始めただけで、周りの世界の見え方が少し変わってきている。もしかしたら、これからもっと大きな変化が起こるかもしれない。そう思うと、少し期待と不安が入り混じった感情が湧き上がってきた。


「ということで、次回から、自分の波動をどのように整え、高めていくか、具体的な方法についてお話しします。それまでの間、周りの波動があなたにどのような影響を与えているか、そしてあなたの波動が周りにどのような影響を与えているか、意識してみてください。では、また。」


音声が終わり、亮はしばらくの間、静かに座っていた。


これまでの人生で、自分が思っていた以上に周りの影響を受けていたことに気づき、少し戸惑いを感じる。しかし同時に、これからは自分の波動をコントロールすることで、本当の意味で自分の人生を歩み始められるかもしれないという希望も芽生えていた。


「明日からは、もっと自分の波動を意識して過ごしてみよう」


そう決意して、亮はベッドに向かった。

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