3-6
それが一体なんだというのだろう、と話しながらエリザベスは思った。でもアニーに伝えたいことだったのだ。エリザベスの腕の中で、アニーがくすりと笑ったような気配があった。
「……あたしも……あたたかい」
次の瞬間、アニーがするりとエリザベスから離れた。そしてまじまじとエリザベスを見た。たった今、エリザベスが自分の近くにいることに気づいたように。
「エリザベスさん」アニーは言った。「どうしてあたしは――あたしたちはこんなところにいるの?」
――――
アニーはじっと、自分の目の前に立つエリザベスを見つめた。ここは洞窟の中。やけに暗いけど。洞窟の中に入ったのは覚えている。
エヴァンスさんが行方不明になって――あたしはこの中にいると思って、入っていった。でもそこでいきなり真っ暗になって――そうよ、真っ暗になっただけではなかった。あたしはいつのまにか外にいた。空が暗くて海が荒れてて、そこから――そこからドラゴンが現れて――。
その先は覚えてない。で、なんで今、目の前にエリザベスさんがいるんだろう。
「その――ここは海岸にある、洞窟の中なの」
ためらいがちに、エリザベスが口を開いた。「あなたが中に入ったから、私も後についていったのね」
「うん」
それはアニーもわかっている。でもだとしたらなぜ――なぜ、こんなに暗いのだろう。不思議なことに、エリザベスの姿はよく見えるが。
「あたしたち、閉じ込められたの?」
アニーはエリザベスに尋ねた。エリザベスは困惑の表情を見せた。
「わからない――。でもきっとここから出られると思うわ」
「……不思議な光景を見たの」
海から現れるドラゴンを、そこにあった光る目を思い出してアニーは言った。あれは……なんだったのだろう。
「でももうその光景はどこかにいっちゃったみたいね」アニーはなるべく明るく、エリザベスに言った。「そしてその後、何があったかよくわからないの……。ごめんなさいエリザベスさん、あなたがいつ来たのかもわからない」
アニーは一生懸命記憶を探った。人の気配。そう、あたしの隣に誰かがいたような記憶があるわ。
「あたし……」アニーが考え考え言った。「あたし、誰かに何か話してた。それはあなただったと思う。……あたし、何かおかしなこと言った?」
「いいえ、何も」
エリザベスは静かに答えた。
何かあたたかいものに触れたような記憶があるわ。それは甘く、よいものだった。ひょっとするとそれはエリザベスさん――に関するものだったかもしれない。わからないけれど。
そんなことを考えているうちに、アニーはあることに気づいて声をあげた。
「アモン!」
小さなかわいい相棒の姿を探す。けれども見える範囲にはいなかった。
「アモン、どこに行っちゃったんだろう……。洞窟の外で待っててくれてるかな……。それにシリルも!」
アニーはエリザベスを見た。
「シリルとアモンは洞窟の中に入ったかな?」
「わからないわ。外にいてくれるといいけど」
「そして助けを呼びに行ってくれてるといいわね」
この暗さはただごとではないわ、とアニーはあらためて思った。入口が崩れてしまったのかもしれない……。だとしたら一大事だ。でもシリルとアモンが外に残っていれば、すぐに救援が来るだろう。
アニーは固い地面の上に腰をおろした。変な状況。何が起こっているのかさっぱりわからない。でも不思議ね。なぜだかあんまり――あんまり怖くない。
アニーにつられるように、エリザベスもその横に座った。エリザベスのほうをちらりと見ながらアニーは思った。一人じゃないからかな。そうね、それが原因かもしれない。一人ぼっちだったら、きっともっと、すごく不安で怖かっただろうから。
少しの間、二人とも黙っていた。けれども静寂をやぶる、悲しげな声が聞こえてきた。
「シリルだ!」
アニーははじかれるように立ち上がった。続いて、エリザベスも。二人は声のしたほうを見た。すると不思議なことに、そこにシリルがするすると姿を見せたのだ。
「アニー! 姉さん!」
シリルが涙声で叫び、二人のほうに駆けてきた。「ねえ、真っ暗なんだけど! 何があったっていうのさ!」
「それは……あたしたちもわからないの」
突然のシリルの出現に驚き、そしてシリルに会えたことに安心し、けれどもこの困った状況にシリルも巻き込まれていることに落胆し……、アニーは複雑な気持ちでシリルを迎えた。
「入口が崩れてしまったのでしょう」
穏やかな声でエリザベスが言った。「でもそのうち助けがくるわ」
「そのうちって……いつ?」
シリルはべそをかいていた。シリルが弱っているせいか、アニーは自分がしっかりしていなきゃと思った。そこで力強い口調で言った。
「すぐに、よ。外にはアモンが残っているわ。アモンは賢い犬なの。たちまち助けを呼びにいくわ。そして大勢の人たちをつれて、ここに戻って来る」
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