2-2
「僕はドラゴンの夢をあきらめないぞ」アニーの横を歩きながら、シリルが言う。エリザベスは少し離れたところで興味深そうに崖を見ていた。「あまりに地中奥深くあるのでまだ誰にも発見されてないのかもしれない」
「そうね……」
そして二人は黙り、アニーは化石探しを再開した。シリルもあちこちを見ていたが、やが足元の石ころを見回して感心したように言った。
「アニーがこの中から化石が入った石を見つけられるのはすごいと思う」
シリルのまっすぐなほめ言葉に、アニーはなんだか気恥ずかしくなった。
「それは単に経験の問題なのよ。あたしはそういう石を見慣れてるから見分けることができるというだけ。それにあたしだって、見間違うことはたくさんある」
アニーはかがんで、その辺の石を適当に拾った。
「ほらこれなんか中は何もないと思う。でもね、こういうのをいっぱい拾って帰ってきて、家で割ってみてがっかりするの」
「何か面白いものを見つけたの?」
エリザベスが二人の元へやってきた。アニーは否定した。
「何も。ただの石よ」
「見せてちょうだい」
アニーはエリザベスに石を渡した。エリザベスは石のあちこちをよく観察した。
「ただの石じゃないわ」エリザベスは笑顔になってアニーに石を返した。「ほんの少しだけど、何かが顔をのぞかせてる」
「え、ほんと!?」
アニーも石をよく見た。たしかに、化石のようなものが一部顔をのぞかせている。
「少し割ってみましょう」
アニーはそわそわした気持ちになって、ハンマーを石に打ち付けた。少しずつ、石が削れていく。そして徐々に中にあるものが明らかになっていく。
「アンモナイトかしら」
アニーは言った。横で、シリルが感心した声をあげた。
「すごーい! やっぱりアニーは化石少女だよ!」
「化石少女? エヴァンスさんが使ってた言葉ね。正直それ、困ってしまうのよ。なんだかあたしが化石になったみたいで……。あの!」アニーはエリザベスに言った。石を差し出しながら。「これ、差し上げます」
「どうして?」
エリザベスがけげんな顔をする。
「だって……化石の存在に気づいたのはあなただから」
「でも石を見つけたのは、あなたよ、アニー。だからこれはあなたのもの。店の売り物にしなさいな」
「でも……」
アニーとしてはこれをこのままもらってしまうのは、どうも落ち着かない気持ちがあった。エリザベスは首を少しかしげ、短い間、考えた。
「そうねえ……。じゃあこうしましょうか。これは私のものね。でも私があなたにこの化石をきれいにしてもらうことを頼むの。そしてあなたは私にその手間賃を請求してちょうだい」
「そんな……」
「いいのよ、それで。これは私とあなたの化石、ということにしましょう」
エリザベスが茶目っ気を見せて、アニーに言った。アニーもつられて笑顔になった。隣でシリルも笑っている。
「アニー、君は変なところで義理がたいね」
「あたしは、公正でありたいのよ」
アニーはエリザベスを見た。わずかな違いも見逃さない、よい目を持つエリザベスさん。やはり彼女は「あれ」に……ベイカー家の秘密に気づくだろうか。
ううん、心配するのはやめよう、とアニーは思った。エリザベスさんはいい人だし、彼女と敵対するとか、彼女のじゃまをするとか、そういうことはしたくないのよ。
ただ……なりゆきにまかせよう。消極的に、アニーは思った。
――――
アニーはまたその日も海岸にいた。アモンと一緒に。そしてすっかりおなじみになった声が聞こえてくる。もちろんシリルだ。けれどもその日はシリルだけでなく、別の人物も一緒にいた。
エリザベスではない。アニーが初めて見る人物だ。
背が高く、がっしりとした若い男性だった。身なりからして、シリルたちと同じように、お金持ちなのだろうということがわかる。シリルがアニーの名前を呼び、二人して、アニーの元に近づいてくる。男性は大股に、堂々と歩いた。
「アニー、姉さんの婚約者のクラークさんだよ」
シリルが紹介する。この人がそうなのか、とアニーは男性を見た。四角い角張った顔をしているが、目は陽気そうに輝いている。体が大きいせいか、迫力があるけど、悪い人ではないみたいね、とアニーは思った。
「僕の家に遊びに来ててね、何日か滞在していくんだ」
「お話は聞いているよ。君が優秀な化石ハンターなんだね」
クラークはアニーに言った。体だけでなく、声までも大きかった。
「あ、はい、そうなんです」
アニーは迫力に少しとまどい、クラークの差し出した手を機械的に握った。
「や! かわいい犬までいるぞ!」
クラークはアモンに気づいた。しゃがみこんで、大きな手でアモンをわしわしとなでる。アモンは喜び、おおいにしっぽを振った。
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