1-8

 年にも見えるし、若くも見える。よくやせた長身。張りのない髪はいつもぼさぼさだ。わずかに寄った目に突き出た鼻。口はたいていヘの字に結ばれていた。


 エヴァンスという名前で、この町に住む独身のお金持ちだ。それだけはわかっている。そして彼も、化石が好きだ。アニーはレイトン姉妹を通じて、彼と知り合ったのだ。


「おや、化石少女ではないですか」


 ようやく気づいたのか、エヴァンスがアニーを見て言った。「そして他の方々は……?」


「紹介がまだでしたね。エヴァンスさん、こちらは最近越してこられたヒース家のお嬢さんとお坊ちゃん。エリザベスさんとシリルさんですよ。そしてエリザベスさんとシリルさん、こちらが私の友人のエヴァンスさん」


 ジェーンが言い、3人がそれぞれにあいさつを交わした。


「ほうほう、そう言えば、私の家にもあなたたちの親御さんが来られましたよ。引っ越しの挨拶をしに」エヴァンスがじろじろとヒース姉弟を見た。「娘と息子がいると言っていた――あなたたちですか」


「はい」


 シリルが明るく答えた。エリザベスはエヴァンスの不躾な視線にとまどっているのか、小さな声で「ええ」とだけ言った。


 マリアとメイドが部屋に入ってくる。アニーたちの前にお茶とバター付きパンが置かれた。アニーのお腹が小さく鳴った。


 レイトン姉妹の家で食べ物をごちそうになることがあるけれど――実はとても嬉しい。だって、我が家では食べられないようなおいしいものが出るんですもの。


 でも、浅ましいとは思われたくない。食べ物目当てでやってくる子どもだなんて思われるのは嫌。でも――今日のようにたまたまお茶の時間になっちゃうのは仕方ないわよね。


 アニーは遠慮なくパンを食べることにした。


「化石少女、最近の収穫は何かありましたか?」


 エヴァンスがアニーに尋ねた。化石少女って……エヴァンスさんはあたしのことをそう言うけど、変な呼び名だわ。なんだか化石になった大昔の少女みたい。でもまあいいけど。そんなに腹が立つことでもないし。


 アニーはさらりと答えた。


「状態のいい魚の化石と、あとはワニの骨がいくつか」

「ワニの骨の化石は僕も見ましたよ。アニーが崖に埋まっていたのをめざとく発見したんです」


 シリルがパンを飲み込んで言う。「でも、僕には少し変わった石だなってことしかわかりませんでした。あれほんとにワニの骨なんですか?」


「ワニではありませんぞ。ドラゴンです」


 シリルの無邪気な問いに、エヴァンスは重々しく答えた。


「ドラゴン!」シリルが驚いて大きな声を出す。「ほんとなんですか!?」


「まさか」


 アニーが小さな声で言う。ややエヴァンスに遠慮して。ジェーンはくすくす笑って言った。


「エヴァンスさんお得意の理論なんですよ」


「そうです。この土地には大昔、ドラゴンが住んでいたんです」熱っぽくエヴァンスが語りはじめた。「ここは海だったのです。温かい海。その海にドラゴンが住んでいたのです……」


「海のドラゴンですか?」シリルが目を丸くしている。「それって海の中にいたんですか?」


「海の中にもいたでしょう。あるいは外に出てくることもあったでしょうな」

「ドラゴンは海の中でも息ができるのかなあ」

「息はできなかったかもしれません。イルカやクジラのようにたまに水面に出てきて呼吸をしていたのかもしれませんなあ。しかしこれはまだ確定的なことではありませんが。水中に特化したドラゴンがいてもおかしくはない」

「羽はどうだったんでしょう。水中のドラゴンにも羽はあった?」

「それはまだわからぬことです。羽の化石はまだ出てきておらぬので。でもだからといってないとも言えませんな。これから出てくるやもしれません。海のドラゴンは――羽があり、それを水中ではためかせて泳いでいた――」

「雄大な光景ですね!」


 シリルは感に堪えない様子で言った。けれどもアニーはあきれていた。ここら一体が温かい海だったというのはたしかなことだと思う。ウミユリやヒトデといった海の生き物の化石が出てくるのだし。それにワニの化石が出てくるということは、今よりももっと気温が高かったということ。


 でもドラゴンなんて――。ワニじゃなくて、ドラゴンなんて! それはちょっと信じられない!


 けれどもシリルはすっかりエヴァンスの話に夢中になっているようだった。

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