第8話 疲れたからスコーン焼こう


 六月七月は忙しい。なぜか分からないけど忙しい。

 そしてホッとした途端、夏休みが来る気配がビンビンきていてやってられない。

 一人の時間が無くなる。なにせ全く遊びに行かないんだうちの娘は。せっかくお友達が誘いに来てくれても、三十分くらい遊んだら「疲れた」とか言って帰ってくる軟弱な子どもなんだ。

 そして何をするかと言えばもちろん、Switchを起動して、絵を描いて、YouTubeでゲーム実況とかを見ているんだ。キヨうるさいぞ!!


 スマホを持たせていない娘は、Switchの名前を変えてお友達と会話をしている。

 不便から工夫が生まれるなんていうけど(言うよね?)へえ、そういう方法があんのねー、なんて微笑ましい気持ちがするけれども、オープンになってるのは私のアカウントなので、私の友人一同にも見られていると思うと、今すぐ止めてもらいたい。




 最近はスコーンを焼いている。もうやけになって焼いている。

 忙しい時間の合間を縫って、袋に材料全部を詰め込んで、揉んで混ぜて焼いている。


 私は今までずっとスコーンを舐めていたんです。いや、食べ方の話じゃなくて。

 なんていうかイギリスのお菓子っていう時点で舐めているし、作っている料理番組を何度か見たけど、適当であればあるほどいい、みたいなざっくりした感じも、数グラムで扱いが変わる他のお菓子とはなんか違うわよねー、みたいなツンとした気持ちがする。そのくせ、発酵なんて工程が入ってたりするともう鼻で笑っちゃうわけなんです。貴様ごときが発酵しろだと? (発酵が一番嫌いな私)

 いったいなぜこんなにスコーンに対して拗らせているのか、きっかけは謎なんですけれども。

 そうしたら先月、私をこんなに高慢ちきにさせるスコーンの、ホテルオークラレシピってやつに出会いましてですね、私、高慢ちきらしく、


「一流ホテルのレシピなら、わたくしを満足させられるのかもしれませんわね」


 みたいなノリが降りてきて、で、作ってみたんです。

  

 まあ、計量している時点で思いましたよね、バターしこたま使うじゃん……って。

 こんなん美味しくないわけないじゃん。

 一度冷やすという工程はややだるいものの、発酵よりはマシと割り切って、いざベイク。


「うん、そうね。美味しいと言って差し上げてもよくってよ」


 さっそくネットショッピングで道産小麦の強力粉を注文。友達にも話したら、全粒粉レシピをくれたので、全粒粉も思い切ってドーンと注文。

 ふらっと立ち寄った本屋でスコーンのレシピ本まで購入して、粉が届いたのでさあ作ろうと思ったら、買った本のレシピがオール薄力粉だった。

 いや、強力粉二キロあんのよ。全粒粉も三キロ。


「えーい!! スコーンなんてレシピ通りに作らなくても構いませんわ!!」


 というわけで、やけになって焼いているわけです。

 私が好きなのは、全部ザクザクしてるやつ。もはやこれは分厚いクッキーじゃね? って感じのやつ。しっとりとか、ふわふわとかはちょっと。外ざっくり、中しっとりはギリセーフ(うるさい)。

 強力粉と全粒粉半々にして使ってるし、バターじゃなくてコメ油使ってる。

 コストコでハイカカオと間違えて大容量のミルクチョコ買っちゃったんでそれも入れてるし、賞味期限切れたフルグラも入れてるし、なにをするために買ったのか思い出せない冷凍ブルーベリーも入れてる。もちろん大好きなピーカンナッツも。

 なんでも適当に袋にぶっこんで、冷蔵庫で休ませもせずに焼いてる。

 中途半端な残り野菜を全部入れたスープみたいな扱い。便利。

 こういう懐の深さがスコーンのいいところなんだなあと、ようやく前向きな目線でスコーンを見ています。

 

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