第9話 夏休み終了のお知らせ


「明日学校なんだから早く寝るよ! あれ、シャワー浴びた?」

「明日の朝浴びる」

「ええ? まあ別にいいけど。なに色塗ってんの」

「歯磨きカレンダー」

「ああそう。はよ」

「うん」

「こっちは終わったの?」

「……あっ」

「えっ?」


 一行日記が埋まってない。半分以上埋まってない。


「うおい! なんで毎日書かないの! どうせなにしたか思い出せなかったんでしょ! わかんないなら教えてとか言いなよ! どうするつもりだったんだよ!」

 目を逸らす娘。

「……お腹空いた」

「はあ!?」

 歯磨いてから何言ってんだよ!!!



「この日はお墓参り。天気は良かったね。帰りにジェラート食べた。次の日は――」

 ミロを飲み、ふりかけご飯を口に詰めながら夏休みを振り返るPM10:45。


「はー終わった。歯磨いた? もう11時過ぎたよ! 寝て寝て!」

「本読んで」

「どつきまわすぞ!!」



 ピッ〇マで、じゅう何番目だかのカルテの全話イッキ読むつもりだったのに、25話までしか読めなかった。(全149話)

 はあ。とにかくやっと夏休みが終わった。別の市の友達はもう一日あるらしく、頑張れ頑張れと励ましつつ、ソファーでくたばる。

 今日は涼しいなあ。エアコンも扇風機も要らない。コーヒー飲もうかなって思うくらい。


 夕べ娘の一行日記を埋めながら、毎日何かしてあげよう、どこかに連れて行ってあげようと頑張った自分をセルフで労った。

 長期休みってのは、最中は早く終われと思うものの、終わるともっと色々やってあげたらよかったと毎度後悔する。

 なんにも書くことがない日だってあっていいんだと思う。でも放置され気味だった自分の幼少期があるせいか、どうにも罪に感じてしまう。

 このままでは動画視聴とゲームで一日が終わる!! と、ボーリングに三回行った。カラオケにも行った。映画館は嫌がられた。なんでや。

 しょうがないから家でクレしんの去年の映画を見て、忍たまの映画を観たら、利吉さんの「お兄ちゃん」で変な声が出た。なんじゃあれ、尊過ぎるでしょ。


 シメに新千歳空港でソフトクリームを食べ、実家で人生ゲームをやった。仕事に就けず、フリーターでゴール。くっ。

 夜眠れなかったらしい母が、一人で夜中に人生ゲームをしたと言っていて、

「ルールが分からなくて、仕事にはつけないし結婚もできなかった」

 と言っていて、リアル人生でも知識不足で母子家庭が受けられる控除を受け損ねていたことを思い出して、なんとも言えない気持ちになった。

 私のなんにもない夏休みの最中、この人は頑張って働いていたんだ。頑張ったね。再婚もしたし、私も姉も生きている。よかったね。

 そんな2025年の夏休み。終了です。

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