第33話

ひとりで病院へ行った。


前みたいに私服を持ってでて、一度学校へ行ってから早退し、駅で着替えた。




眠っている間に全てが終わるんだと思ってた。

CMをスキップで飛ばすみたいに、起きたら終わってる、そんなふうに考えてた。

でも、麻酔は全身ではなくて、局所麻酔だと説明された。



意識を保ったまま手術すると言うことは、自分の中の命を、わたし自身が奪うという罪を心に刻みつけるということ。


目が覚めたら、何事もなかったかのように、全部が終わってるわけじゃない。



当然の報い。



手術の前に見せてもらったエコー写真に映っていたのは、小さな丸い点でしかなかったけれど、それは確かに一つの命で、わたしがこれから行うのは、中絶という名の「人殺し」――



その命は、半分はわたしで、半分は遼からできている。


遼はその半分をいらないと言う。


じゃあ、わたしは?


ずっと「怖い」とばかり思ってきたけれど……


わたしは本当にこれでいいの?


今はまだ小さな丸い点だけど、確かにわたしの中で生きているのに……



「行こうか」



看護師さんに言われて、病院の廊下を歩いた。





これはわたしの、無知という名の罪……

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