第20話 18歳
8月はわたしの誕生日。
遼には言っていない。
「付き合う」ことになってすぐに誕生日を聞かれたけれど、笑って教えなかった。
言えば「何歳になるの?」って聞かれてしまうから。
適当な年を言っても、大学生がどんなものなのかわからないからバレてしまう。
初めて遼の部屋に行った日、2人で並んでテレビを見ながら、頭の中では違うことを考えていた。
テレビでは、大手不動産会社が地面師という詐欺グループに騙されたニュースをやっていて、遼はそれを真剣に見ている。
「わたしは大学生じゃなくて高校生なんだ」って、正直に言わないといけない。このまま遼に嘘をついたままでいたくない。
わたしの頭の中は「いつ言おう?」ということでいっぱいだった。
でも、「いつ」とかタイミングなんて考えてたら言えなくなる。
今、言おう。
テレビがCMに入って、「話そう」と思った瞬間、先に言葉を発したのは遼の方だった。
「そう言えば、いつだったか忘れたんだけど、常広が……常広って、菜々子と最初に会った日、カラオケボックスにいたやつなんだけど、菜々子が天応高校の制服着てるの見たって」
心臓がぎゅうっと痛くなった。
早く、今、言わないと――。
「あのね――」
「他人の空似だって一笑しといた。菜々子が大学生ってだけでも『ロリコン?』とか女子社員に言われるくらいなのに。高校生はあり得ない」
「高校生は……なしなんだ?」
「ないよ。社会人と高校生はない」
「ないんだ」
「ないでしょ?」
「だよね。大学生だって十分やばいよ?」
「そんなこと言うのやめて。オレ別れたくないからね」
遼が真剣な顔でわたしを見ながら、わたしの指に軽くふれると、ゆっくりと絡ませてきた。
そして、もう片方の手で最初はわたしの長い髪の毛に指を通していたけれど、やがて引き寄せられた。
もう、とっくの昔にCMは終わっていたけれど、テレビの音なんて耳に入ってこなかった。
頭の中で、「大人のキスだ」って思った後は、もう何も考えられなくなっていたから……
言えない。
本当のことを言って、わたしがまだ高校生だなんてわかったら嫌われてしまう。
それだけは嫌――
だから、誕生日がきて、ようやく18歳になったことは言わなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます