第19話

帰りは、いつものように駅まで送ってもらったけれど、いつもみたいに「またね」と言われる代わりに、違うことを言われた。



「車だから家の前まで送るよ?」


「ううん、ここでいい」


「オレといるのを親に見られたら困る? 菜々子ちゃんが良ければいつでも挨拶しに行くけど?」



それは……困る。

高校生の娘が付き合ってる相手が社会人だなんて、しかも8つも上だなんて親が知ったら絶対に反対される。



「オレってまだ信用ない?」


「そんなことないよ! 遼さんのことは信じてる」



ほっとしたような顔をされた。



「『菜々子』って呼んでもいい? 『菜々子』って呼びたい」


「いいよ? そんなことわざわざ聞かなくてもいいのに」


「オレのことも、ずっと『さん』づけのままだけど、呼び捨てでいいよ」


「でも……」


「呼んでみて」


「……遼」


「次は『遼、好き』って言ってみて」


「えっ?」


「言って」


「遼……好き」



面と向かって言うのが恥ずかしくて、助手席のダッシュボードを見ながら言った。

言った後で、隣に顔を向けると、遼は優しい顔でわたしのことを見つめていた。



「オレも、菜々子が好き」



初めて、名前を呼び捨てにされた。



「信用……失くすようなことしていい?」


「それって、どんなこと?」


「例えば、こういうこと」



初めてのキスは車の中だった。

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