主人公さ、きっと。

ハッピーエンドの主人公は最後まで描かれない。

物語は区切りのいいところで終わり、幸せに暮らしたと、物語は終わりを告げる。僕たちの人生を物語としたとき、生まれてから死ぬまでが僕たちの物語となる。だから僕は、この世界にハッピーエンドなんてものは存在しないと思う。



結局おじいさんに鍵を拾ってもらった以来外に出れてない。

「辛いな」

毎日苦手な学校に保健室を使ってまで登校してるほうがよほど辛かったはずなのに

何もしていない今の方がずっとつらい。

ヒーリングミュージックを聞いても治せない負の感情は自分の体に巻き付いて離れない。

伸びきった髪をいじりながら椅子に座る。

音楽、ゲーム、料理、何をしても晴れない心に苛立ちを感じたその瞬間、一通のメッセージが目を動かした。

"差出人 : ○○"

小学生の頃親友だった○○だ。

小学校の卒業式の時中学が別だったため、連絡が取れるようにと交換していた連絡先だった。

「一体何年ぶりの連絡だ...?」

彼から送られてきたメッセージを見る。


"○○:へい親友!元気してるか?"

"自分:久々に日の目を浴びたよ"

"○○:誰が太陽だって?まあいい、久々に日の目を浴びたってお前、外出てねえのか?"

"自分:まあ、そうだね.."

"○○:なら久々に会おうぜ"

"自分:え?なんでそんな急に"

"○○:外に出ないって健康によくないじゃん?"

"自分:うん"

"○○:しかもお前が外に出てないときって、お前が元気じゃないときだからさ"

"自分:確かに最近調子よくないけど"

"○○:親友が元気じゃなかったら元気づけたくなるもんだろ!"

"自分:まあ..そうだね..."

"○○:わかったなら明日の16時小学校の校門集合な"

"自分:急だね...わかった"

"○○:お前と会うの、楽しみにしてるぜ"

そこで会話が終わった。


すらすらと言葉が出てきたのが不思議に思える。最近は全く言葉を使わなかったから。にしてもなぜ...?まったく連絡を取り合ってなかったのに急に連絡をしてくるなんて、まあいいか、とりあえず寝てしまおう。

....




時計の短い針が2度目の4を指す時、僕たちは校門の前にいた。

「久しぶり」

『おう!おひさーだな』

『とりあえずいつもの公園いこうぜ』

「そうだね」

小学生の頃、ほぼ毎日向かっていた公園に足を運ぶ。


ああ、変わってない。なにも、木々は靡き、砂が混じったレンガの道は足音を大きく聞こえさせ、真っ赤に染まった空が僕たちを照らす。

『それよりもお前、あの輝かしい笑顔はどこに置いて行ったんだよ。』

輝かしい...笑顔?

『確かにこれは、元気が一ミリもないな』

「元気がないのは事実だけど...笑顔?」

『そう!お前のあの太陽みたいな笑顔』

「太陽みたいなって...」

『あの時のお前は、本当に太陽だったよ』

「それってどういう意味?君の方が、太陽という言葉がよく似合うと思うんだけど」

『わからねえか?お前はみんなを照らすような明るい太陽じゃなくて、中心にいる太陽なんだよ』

「どういうこと?」

『要するに、お前は  主人公  ってことなんだよ』




「僕が、主人公?」

『そう』

ありえない



ありえない。ありえない。ありえない。

自分にとって最も遠い存在だと思った。冷たくて、弱くて、壊れてしまう僕が、

「違うよ」

「僕はそんな暖かくない、強くない」

自分を貶す言葉が次々と出てくる、揺らぐ、体が震える、頭が沸騰する、涙が出る

弱い、

僕は弱い、

俺は弱い、

弱い、

弱い

弱い

弱い

弱い

弱い

弱い

『違うだろ』

っ....

『お前が冷たかったら、親友なんて言うか!?お前が弱かったら、今ここに立ててるのか!?お前が壊れてたらお前はここにいるのか!!!??』

『お前が冷たいなら、その真っ赤で熱い顔と暖かい涙はなんなんだよ!!』

はっとする、心臓の鼓動がさっきよりも早くなる、顔が熱くなり、温かい涙がぬるく感じる、涙で歪んだ視界がクリアになっていく。

『気づいたか?』

『お前はこの世界を温める太陽になれない、でも、せめて自分の周りの人たちを温めてあげろよ!』

「じゃあ僕のことを主人公って言ったのは...」

『太陽だって、主人公だって、この世界すべてを牽引してるんじゃない、自分とその周り、その物語なんだ』

『だから俺だって主人公さ、みんな主人公で物語を紡いでる』

『自分の価値を考えるよりも、自分の物語をどう紡ぐか考えようぜ』

『そして俺は、お前のその溢れ出る感情に人生を動かす力を感じる』

『その溢れ出る感情が、無意識に出てるその感情が』


"お前の物語で、お前を主人公たらしめる、理由だと思うぜ"




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