未定
@Hakuretto
主人公か、否か。
一般人、この世界を構成する生物のうちの一つでしかない。
主人公、この世界の中心となり、その者がこの世界を進めていく。
一度考えたことがあると思う。この世界の主人公は自分か、はたまた別の人か。
もし自分が主人公でないのなら、私の人生にはどんな価値があるんだろう。
目が覚めた。見知った匂いが鼻を通り、口の中に不快感が残るのを感じる。毛布を退かし、立つ、そんな人間の動作をただ続ける。朝は口の中を洗っても不快感がしばらく残ったままで、朝ごはんを食べる気力が湧かない。
「外に出るか」
硬いスニーカーを履き、足を慣らす。
家から出た瞬間の世界は少し明るく、綺麗に見える。
外に出たところで、何も起きないのは知っているが、家にいるよりは何か起きるだろう。繰り返す日々にも少し秋が来た。暑さもなくなり、ちょうど過ごしやすい時期だ。
この世界にはいろんな人がいる。インターネットの世界にも様々な人がいるが、現実世界のみんなは、やはり一人一人違う。
笑顔で会話を交わす人、水平線を見つめてるように真っすぐ歩く人、憎悪の心を感じる人もいる。一人一人違い過ぎて、頑張ればこの世界の全員覚えれそうな気がしてくる。そんなことを考えながら今日も小綺麗なコンクリートを踏みつける。
『鍵、落としましたよ』
そんな優しそうな男の声が聞こえてくる。
振り返ると鍵を私の体の前に出して、笑顔で渡してくれた。
「え、ありがとう..ございます」
『いいんですよ。気を付けてくださいね』
会話が進む、感謝の言葉は勝手に紡がれ、その男の人との会話を終える。
「久々に笑顔を見た....」
自分にとってその笑顔は眩しくて、憧れで、嬉しく思えた。
~年前。
保健室に登校し、学校での一日をみんなより少し遅く始めようとしている。
「おはようございます....」
まだ人と喋るのは少し苦手かもなぁ...
『おはよう!よくきたねぇ』
『待ってたよ~!』
保健室の先生とスクールカウンセラーっていう先生が笑顔で迎え入れてくれる。
ここなら、すこし楽に喋れるなぁ。
『漢字ドリルは持ってきた?』
「うん」
『よし!それじゃあ今日は3ページやってみようか』
3ページかぁ、なら頑張れる気がする。
クラスのみんなは、もっといっぱいやってるんだろうなぁ...
「おわりました!」
『おお!よくできたね!見てみるね。』
『うん!よくできてるよ』
褒められると、どうしても笑顔になってしまう。
自分で制御できない。自然と笑顔になってしまう。
『いい笑顔だね!今日はトランプしよっか』
勉強を頑張ると、スクールカウンセラーの先生が一緒にゲームをしてくれる。
でもたまに思う。自分だけ勉強しなくてもいいのかなって。
誰も居ない教室でテストを受けても、最後まで終わらない。空は丸い太陽で赤く照らされているのに、僕のテスト用紙は青のチェックで暗く沈んでいる。
『○○くん迎えにきたよ!』
保健室の先生が大きな声で伝えてくれる。
「○○!きてくれてありがとう!」
また嬉しくなってしまい笑顔になる。
『当たり前でしょ!俺たち親友でしょ?』
「もちろん!」
僕がなぜ保健室に来てまで学校に来てるのか、それはこの子がいるから。家が近く、この学校に転校してきたときに一番最初にしゃべった子だ。この子とはよく趣味が合う。同じゲームが大好きで、話しやすい。身長も近いしとても似ているように感じる。
もし中学に進学して、この子と離れ離れになってしまったら、僕はどうしてしまえばいいのだろう...?
そんな不安を押し殺し、空と信号機が赤に染まる前に道をその子と駆ける。
つい考えに更けてしまった。
落としたカギを受け取ってから昔のことを考えながら歩いてしまった。
ここ最近このようなことが増えてきている気がしてならない。
昔を思い出しても昔は帰ってこないのに、
自問をしても自答が帰ってこないのに、
歪む考えと薄くなる自分の世界を噛み続け、この世界の一人として生きていくしかないのだろう。
結局すぐ家に帰ってきてしまった。
ネガティブな考えは好きじゃない。連鎖する。
自分しか本当に自分を愛せないのに、自分を愛さないでどうする。
わかってる。そんなこと、人はネガティブになると愛を求める。でも愛を求めてまたネガティブになってのループになる。だから、自分を愛さなければネガティブは治らない、自分を見てあげなきゃいけない。認めてあげないといけない。誰かの答えなんてあてにならない。自分で答えを出して行動するしかない。でもそれができるまでにいくつもの苦悩を味わなければいけない?
あの頃はよかった、みんなそんなことを言う。自分はその言葉が少し苦手だ。
過去にすがっているようで、今の現実を見ないで後ろばっか見ているようで。
でも今は、今だけは
「あの頃はよかったな...」
「心を許せる人がいた」
「自分を見てくれる人がいた」
「誰かにとっての大切な存在だった」
「みんなと授業は受けれなかったかもしれない、テストの点数だって良くなかったかもしれない、でも小さな幸せが、無限にあった。」
その時の俺は間違いなく、「主人公」だった。
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