第5話 つくしの卵とじ

 騎士さんが居候を始めて二週間。騎士さんはヒモニートを極めていた。ただ、この生活に満更でもない僕がいて不思議な気分だ。


 よく分からない感情だが、野草を料理していれば整理していくだろう。今日も作ろう。


 今日はつくしを使う。つくしは市街地周辺から農耕地帯、山地、原野、野原、荒れ地、畑、土手、道ばたなど至る所に生えていて、日当たりの良い酸性のやせた土地を好む野草。大小の集団をつくって群生している。


 まずはアク抜きをする。お米の研ぎ汁につくしをぶち込んで二、三時間浸す。


 浸した後、袴を取る。そこだけは煮ても焼いても柔らかくならない。食べられない部分だから。


 こっからは普通の卵とじにつくしを入れたバージョン。めんつゆとつくしを鍋に入れて十五分程度火にかけて煮る。そしたら鍋に溶き卵を流し入み、火を止める。


 半熟程度に固まったら完成!


「ご飯に合うから食べてみてよ!」


「確かに濃厚な味付けで美味い! すごいですね! つくしでこういう凄いものが作れるなんて!」


「そりゃあどうも……」


 騎士さんが野草を食べる姿を見ているうちにいつのまにか不思議な感情を抱く僕がいた。


 ああ、そうか……これは初恋か。


 僕だってバカでも鈍感ではない。この感情だって、今まで経験してなくても人間観察で幾度となく見てきた。


 そっかぁ。これが初恋かぁ。初恋がこれかぁ。クワの実みたいに甘いなぁ。


 我ながらちょろい。野草を美味い美味いと食べてくれただけで。こんな……


 僕ってこんなにもちょろい存在だったんだ。


 騎士さんが初恋の人と分かった以上、僕は彼を引き止めなければならない。もっともヒモニートだから当面は大丈夫だろうけど。

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