第6話 ノビルの甘辛炒め

 騎士さんが居候を始めてもうすぐ一ヶ月。僕は未だ初恋を告白できずにいた。


 だって僕は世捨て人だったもん。人間観察と野草が趣味の人見知りだもん。自覚したとて実行に移せる胆力は無い。


 ああもう。どうしたら……


 騎士さんは今、野草取りで不在である。帰ってきたら告白チャレンジでもしてみようかなぁ?


「ん? 歪な魔力の塊が迫ってきてる?」


 するとお家の外から転移魔法みたいな魔力の流れを感じた。客人だろうか?


 客人なら丁重にもてなすために野草料理を作ろう。


 今回はノビルを使う。ノビルは日当たりのよい土手や道端で生えている野草である。姿や匂いはニラや小ネギに似ており、古くから食べられている。


 予め採ってきたノビルの根っこ部分を剥いて葉を取る。


 一つずつ綺麗に水で洗い、フライパンに油を引いて軽く炒める。そこに酒、みりん、砂糖、醤油を入れ、弱火で煮詰めたら出来上がり。


「騎士さんはどんなこと言って食べてくれるかなぁ。楽しみだ」


「随分と野草ママごとを楽しんでいるようだね。稀代の魔法使い」


 その声は大魔導師。まさかと思い僕は恐る恐る窓を覗いてみた。案の定、大魔導師がお家の外で直立不動している。


「お前が初めてだよ。私が直々出向く羽目になるとわね」


「東京とかいう都会からわざわざ来たんだ。けどあいにく様僕は魔法に微塵も興味が無いんでね。帰った帰った」


 瞬間、大魔導師が放った突風がさっき作ったノビル料理を吹っ飛ばしていった。料理は地面に叩きつけられ、グチャァってなってしまった。


「あーあ。もったいない。何してくれてんだよ」


 今回は甘辛にしたけど、本来はネギやニラの様な香りにピリッとした味がするのに。


 内心ブチギレ気味だが表情には出さない。


 だってこれはあからさまな挑発行為だからだ。僕を怒らせて冷静さを失わせて、交渉を有利にさせようとする。汚い人間がやる常套手段。


「私の弟子にならなければ魔法協会から追放するぞ」


「追放もなにも入ったことも無いんよ。そんな胡散臭い組織なんて」


「黙れ! 私のスカウトを散々反故にしおって!」


 ダメだ。まるで話が進まない。ていうか大魔導師も怒り心頭という感じだった。


「お前は神様に選ばれた逸材なんだ!」


「うるさいなぁ。野草の神様になら選ばれたいけど、僕はそれ以外の神様には選ばれたくない」


 そんな押し問答を繰り広げること10分。大魔導師がなんとか折れて今日の所は帰ってくれることになった。


「今日は職務放棄騎士を連れて帰るが、何度でもスカウトし続けるよ私は!」


 はっ?


 職務放棄騎士……ヒモニート騎士さんのこと?


「なんだと……今君、なんて言った?」


「アン? 何度でもスカウトし続ける……」


「もっと前だよ! 誰を連れて帰るって!?」


「そりゃあいるんだろ。随分前からここに。なりより、お前の家から騎士の残穢がたくさんあるじゃないか」


 そんなことをしてみろ。僕と騎士さんの将来はどうなるんだ。


 僕は怒った。野草をバカにされた時より、野草を粗末に扱ったり、野草料理を残した奴よりも怒り狂った。


 僕は本能で巨大な魔法陣を顕現させる。


「森の精霊よ。僕に地下水の恵みを与えたまえ。水の精霊達よ。僕に力を貸して。水魔法最終奥義。ハイアクアウェーブ!」


「な、バリ……」


 大魔導師は魔法を使う間もなく、呆気なく水流の中へ沈んでいった。


「僕は騎士さんが好きだから、だから騎士さんを連れて帰るというのは許容できない」



        ◇



 あの出来事から数刻した後、騎士さんが野草取りから帰ってきた。


「なんか辺り一体水浸しなんですけど、雨でも降りました?」


「そうだねぇ。災害みたいなもんだったかな?」


「私がいない間に何があったんですか?」


 僕はしがない田舎っ子。もとい魔法使い。物心ついた時から森に囲まれて過ごしてきた。今日も今日とて野草料理を作りまくる。

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野草を食べよう 片山大雅byまちゃかり @macyakari

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