8話 宮殿の中

「ミラアルクちゃん! ミラアルクちゃん!」



暗闇の中で聞き慣れた自分の名前を呼ぶ声がする。ミラアルクがうっすら目を開けると、そこには心配そうな顔でこちらを覗き込んでいるヴァネッサの顔があった。横では、消耗したエルザがぐったりしている。



「心配したのよ、ミラアルクちゃん」


「ウチは一体...」



どうやら暫く気を失っていたようだ。見知らぬ場所に連れてこられた事を察知すると、すぐに起き上がり、周りを見渡す。およそ10mはあろうかと思われる高い天井、灰色のタイルで出来た壁と床、窓は一切なく外の様子は窺えない、広すぎて余りにも解放感がある空間はどこか不気味に感じる。脱出を試みようとするが、頑丈な扉はやはりビクともしない。


するとそんなミラアルクを見て、ヴァネッサが状況を説明する。



「ここは奴らが言っていた宮殿よ。私たち抵抗虚しくあっさり捕まっちゃいました」


「軽口を叩いている場合じゃないゼ」



まるで緊張感のないヴァネッサにミラアルクが額に汗を流しながら返す。


その時だった。背後からギィィィィィっと重い扉を開く音が聞こえてきた。嫌な予感がして、咄嗟に後ろを振り返るヴァネッサとミラアルク。そこには全身を深緑色の爛れた肌で覆われ、顔部分についている大きな一つの眼球でギョロリと二人を見る醜い化け物の姿があった。



「チッ!」



ミラアルクが舌打ちをすると、扉を開けた醜い怪物が聞くに耐えない醜い声でこう言った。



「貴様らには、この娘のエサとなってもらう」



醜い化け物がそう言うと、後ろから一人の長い黒髪の美少女が現れる。その少女はどこか進也の面影があった。



「何言ってるんだゼ、コイツ」


「分からないけど、ヤバい状況だと言うことは、お姉ちゃんも察しました」



ヴァネッサは戦闘体制に入ると、胸に仕込まれた二機のミサイルを化け物と少女向けて噴射する。噴射されたミサイルは、化け物と少女に直撃し、凄まじい爆発音がなる。



「やったゼ!!」



エルザを肩で支えながらミラアルクがガッツポーズを取る。


だが煙越しに、化け物と少女がその場に立っているシルエットが浮かび上がる。奴らは無傷だった。



「全然、効いてないっ!!」


「いけ、奴らを喰らい尽くせ!!」



化け物が叫んだのと同時に、煙の中から無表情のまま少女が跳躍したかと思うと、そのまま勢いよく、獲物を見つけたジャガーの如くヴァネッサの方に飛びかかってくる。



「ヴァネッサ!!」



最早これまでかと思い、目を瞑ったその時だった。



「ハァッッ!!」



どこからか気迫に満ちた声が聞こえたかと思うと、次の瞬間ヴァネッサを喰らい尽くそうとしていた少女の身体が怪物の方へ勢いよく吹き飛ばされていた。


吹き飛ばされた少女の身体は、化け物に勢いよくぶつかり、その衝撃で化け物は壁に叩き付けられる。そのおかげで少女の身体は、直接壁に叩きつけられる事はなかった。



「早くここから逃げるぞ!」



そう言ってこちらを振り返る少年。瞳は黒から血の様な赤になっていたが、ミラアルクはその少年に見覚えがあった。



「朝日進也、何でお前がここに」


「事情は後で説明する。脱出が先だ」


「そうはさせるかぁぁぁぁぁぁぁ!!」



壁に叩きつけられたはずの化け物は、その醜悪な顔に憎しみの表情を浮かべ、醜い奇声をあげる。



「ヴァネッサ! 目眩しだゼ!!」


「分かったわ、ミラアルクちゃん!」



ヴァネッサはそう言うと、ひざから下をベルボトムのように開き、ホバークラフトのように空気を噴射して、化け物と間合いをつめる為にスケート移動する。


そして、化け物の方に距離をつめると、ヴァネッサは化け物のその大きな眼球に、フラッシュを焚いた。



「今よ! 逃げて!」


「やったゼ!! 脱出成功!!」



化け物が眩しさで視力を奪われてる間に、進也、エルザを抱えたミラアルク、ヴァネッサが一目散に部屋を脱出する。


だが、そこにもまた行く手を憚る者が現れる。


化け物の護衛についているニンゲン達だった。



「化け物め!! 一気に散れ!」



進也は羽を前に畳んだかと思うと、ニンゲン達目がけて無数の針状に尖った羽を噴射した。



「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!」



射抜かれた者達は、無数の羽に貫かれ、生き絶えていく。侵入者警報が宮殿中に響いているおかげで、出口に向かう途中、何度か邪魔が入るが、その度に進也は針状の羽で邪魔者を蹴散らしていく。


アグリーに多少力を与えてもらっているとはいえ、所詮はニンゲンだ。


今の進也にとっては、相手にもならなかった。


警報を聴きつけて、次から次へと現れる敵を一騎当千しながらも、何とか宮殿の出口を見つけたミラアルク達。



「何とか脱出出来たゼ。って早くエルザに輸血してやらないとだゼ」



自分の肩でぐったりしているエルザを見て、ミラアルクが慌てた様子で言うが...



「うっ...」



ミラアルクもまた苦しそうにその場に膝をつく。電池切れだ。そんなミラアルク達の様子を見て、進也が呆れた様に言う。



「はぁ、とりあえず事情の説明と輸血してやるからウチに来いよ。行く宛もないんだろ?」


「ごめなさいね、えーっと」


「朝日進也だ」



ヴァネッサが思い出せずに居ると、進也は無表情のまま名乗る。



「そうそう、進也ちゃん」


「進也ちゃんてやめろ、帰るぞ」



ヴァネッサのお姉さん的魅力にやられたのだろうか。少し照れてる様に見える進也であった。




























































  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る