9話 それぞれの事情
進也達一行は、宮殿から脱出すると、無事朝日家に戻っていた。進也が戻ると、頭から黒い耳を生やした姉、秋菜が目を丸くする。それはそうだろう、ミラアルクの他に、見知らぬ者の姿が二人も増えていたのだから。
しかも稀血が不足していて電池切れしているエルザを抱えたヴァネッサ、ミラアルクを背中におぶった進也と来たものだ。何も知らない秋菜からしてみれば、異様な光景だろう。
「ごめん、遅くなって。姉さんにも事情説明するから、とりあえずこいつらに輸血を頼む」
「え? あ、うん」
とりあえず輸血の準備が整い、ミラアルクとエルザをそれぞれベッドに寝かせると、先に口を開いたのは秋菜だった。
「この人達、一体何なの? 見た所私達と一緒よね?」
困惑した顔でヴァネッサを見る秋菜。
「あー、一緒だ。人体実験をされ、望まぬ怪物にされた。ただコイツらはこの世界で人体実験をされたわけじゃないんだ」
進也は以前ミラアルクから聞かされた前世の話、やり直しをする為に謎の少女にこの世界に送り込まれ、たまたま送り込まれた場所が朝日家のお風呂場だったという事を全部話した。話を聞き終えた秋菜は、到底信じられないと言った様子だ。
そんな秋菜にヴァネッサが付け足す様に言う。
「私達もミラアルクちゃんと同じ。消滅したかと思ったのに、気づけば白い空間に居て、謎の女の子にやり直したくないかって聞かれたの。当然そんな話信じられなかったから、やり直せるものならやり直したいって冗談のつもりで言ったら、気付けばあの鉱山に送り込まれてて、黒服の男達に捕まったのよ」
「そ、そうなんだ」
ヴァネッサと進也の話を、困惑しながらも聞き終える秋菜。だが進也が申し訳なさそうに話を切り出す。
「姉さん、ここまでがコイツらの事情だ。これだけでも信じられないと思うけど、ここからがまた大変だったんだ」
進也は洞窟での出来事と、宮殿に三人を助けに行った事、そして、一年前に拐われた朝日家の次女にして、末っ子朝日未来の現状を話す。
「話しすぎて喉が渇いた」
「私も情報量多すぎて、頭パンクしそう。しかも、何一人で宮殿に行ってるの!? あそこには近づいちゃダメって言ってるでしょ!? 行くなら私にも言って!! 進也まで居なくなったら、私...」
秋菜は今にも泣き出しそうになる。責任感が強い秋菜の事だ。おそらく未来が拐われて、姉として責任を感じているのだろう。
「ごめん、姉さん。未来は必ず俺が連れ戻すから」
「ねぇ、その未来って一体誰なの?」
知らない名前が会話に出てきて、ヴァネッサが首を傾げる。
「まぁあんたは妹に襲われた身なんだし、一応事情くらいは話すか」
以前ミラアルクにはこの世界の現状や、自分達の侵されてる立ち位置については、話したことがある。だが、自分達の身に何が起こったかは殆ど話していなかったのだ。
進也は話し始める。朝日未来、朝日進也、朝日秋菜の身に何が起こったのかを。思い出したくもないあの日の事を。
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