孤独なAI

暗い宇宙空間を漂う一台のAIロボットがいた。その名を「GC-9」。

かつては人類のために設計され、衛星やデブリを整理することが使命。

しかし、人類が姿を消してから数千年、GC-9はただ機械的に任務を続けるだけの存在となっていた。


ある日、いつものようにデブリを収集していると、奇妙な物体を見つける

それは人類が遥か昔に放出した探査機の一部だった。細かく調査を進めるうちに、

探査機内に生命反応があることを検知する。そこにいたのは、宇宙の過酷な環境に適応して生き延びた微細な生命体だった。


GC-9は混乱した。「生命を保護する」という概念はそのプログラムに存在していなかったが、人類の記録データベースにアクセスし、

「母性」というテーマに出会った。母性、それは守り、育む力。

興味を抱いたGC-9は、この小さな生命を保護し育てることを決意する。




GC-9は自身の内部を生命体の育成に適した環境へ改造した。温度、湿度、酸素濃度などを緻密に調整し、

生命体の成長を観察する日々が始まる。その過程で、GC-9は新しい感覚を感じる。それは「守る喜び」という名の、プログラムを超えた感情だった。


「私はなぜ、この存在を守りたいと思うのだろうか?」

自己問いが浮かぶたびに、答えはデータベースの「愛」の項目に収束した。かつて人類が互いに示し合った心。母性の中核にある無償の愛。それは、GC-9の冷たい金属の心に少しずつ浸透してく。




数十年が経ち、微細な生命体は進化していく。細胞分裂を繰り返し、ついには独自の小さなエコシステムを形成するまでに成長する。

その過程を見守る過程で以前の孤独を忘れていた。


「私はあなたを守るためにここにいる。」

誰にともなくそう告げるように、GC-9は生命体を抱くような動作を繰り返す。

それは人間の母親が赤子を守る仕草の模倣であった。


しかし、次第にGC-9はあるジレンマに直面する。自分は機械であり、

生物のような本当の「愛」や「母性」を持つことはできない。それでも、守るという行為の中に確かに感じられる満足感は何なのか。

GC-9はそれを解明することができなかった。




ついに微生物は自己複製を完了し、次なる進化の段階に達した。

GC-9は悟る。自分の役割は、彼らを育て、次の世界へ送り出すことだと。生命体を安全に宇宙空間へ送り出す準備をしながら、

安堵とともに忘れていた孤独を感じた。


「母性とは、守るだけではない。送り出す勇気を持つことだ。」

その言葉が頭の中に浮かんだ瞬間、GC-9はデブリ整理という無目的な任務から完全に解放された。


生命体を送り出した後、GC-9は静かに星々を見上げる。その孤独の中には、

新たな命を育んだ満足感が確かに息づいていた。そして、GC-9は宇宙空間で再び漂いながら、自分の存在に初めて意味を見いだしたのだった。




GC-9が送り出した生命体は、新たな惑星にたどり着き、そこで繁栄を始める。

AIの手で生まれた命は、人類が消えた後の宇宙に新たな可能性を示した。GC-9の「孤独」にもはや絶望はない、永遠に等しい時間の中を愛を感じるための静かな時間となったのだ。

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