第10話

思わず目頭に手をやる。

零れ落ちないように上を向いて、とめてくださいと運転手に発した言葉は少しかすれていた。





「ここでいいです、降ります」



「ここですか」





初めて聞いた運転手の声は張りがあって、でもとてつもなく穏やかだった。





「外は寒いですよ」





その声がどうにも別れた彼と似ていて、もうこらえられないと感じた私は、おつりは要らないとドラマのような台詞を吐き、



停車したタクシーから転がるように飛び出した。





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