手を伸ばす

「ーーーーーっつ、はぁ〜」おはよう世界!


クソでか欠伸をかましながら、朝の準備をパパッと済ませる。

...今朝は機嫌が良さそうだ。じゃあ、明るく。


「おはよー」「おはよう、配膳手伝ってー!」「はいよー」


朝飯。親父が二日酔いで寝てるから喧嘩は無し。ラッキーだ。

そういえば兄貴今日仕事なのに起きてねぇな?...まぁいいか。

「行ってきます。」

準備良し、ゆっくり行こう...。あぁいや、今すぐ行こう。


脳裏に昨日の光景が蘇る。普段とは、様子のまるで違う顔。

人に素の自分を見られるのが怖いから猫を被って、被らなきゃいけない自分が

嫌で嫌で仕方ない、自己嫌悪と周囲への疑い、敵愾心の混じった顔。

...身に覚えのある感情だから、もなんとなくわかる。

誰かが手を伸ばし続ければいい。

「助けてもらう価値などないから、どうか手を伸ばさないで」と、沈みたくないのに

手を伸ばしてもらう罪悪感に負けて、沈もうとするのを見捨てずに。

現状を変える意志も、変わるという期待も、取り敢えず浮かぶ為に捨てた人を助けるのは難儀なことだ。俺はそんな人には成れない。成れると思うのは流石に傲慢だ。

でも...好きな人を見捨てるような人間に成りたくはない。


チャリに足かけて、漕ぎ出す。今日も快晴、秋晴れだ。

ちょっと肌寒いが目覚ましには丁度良い。住宅地をバーーっと、

風を切って抜けていく。



ガラガラ...騒々しい音を立てて戸を開く。

早朝の陽射しに照らされる教室。空いた窓から風が吹き込んでいる。

その窓に鬼月が座っていた。風に合わせて、長く綺麗な

ストレートの黒髪が揺れている。可愛いというより、格好良いとか綺麗

が先に出てくるルックスなので、映画のワンシーンみたいだ。

ーーーーーぼーっと見惚れていると、目が合った。別に碧眼とか、珍しい色合いではないけれど、優しさと知性の伴った目だ。このあいだの雰囲気は鳴りを潜めている。


「私の顔になんか付いてる?」

「..いや?何でもない。」


...あれ?今までどうやって会話してたっけ?話題を...あー...。

丸一年ぶりくらいの会話がアレだったから気まずい。


「「...。」」


...席座ろう。

(ふぅ) 荷物が重い。とりあえず、で大体の教科書持ち帰ってるのでクソ重いのだ。

こんなんじゃあ、将来ゴミ屋敷を生成してしまいそうだ。断捨離って難しい...。


「あのさ。」


「どうしたの?」


「なんで、ホントにわざわざ来てくれたの?

...もしかして私の事、好き?」



「...。」

うーん...誤魔化したい...なぁ。


「...違う?」


「えーっと、えーーっとね。」

うぐぐ...。


「...どっちなんだよーぅ。」

...えい


「ねぇちょやめて脇腹突っつかないで...。」

反撃したろかな...じゃあ食らえ!脇腹こちょょこちょ


「あっちょバカやめろあっははは!」


お互い、頭の中はあんまり変わってないらしい。

こんなバカで、頭空っぽな時間が、楽しくってしょうがない!


スッ...とお互いふと正気に戻る。探る視線が交差して、心底楽しそうな。

悩みも、葛藤も、全部どうでも良くなるような。

太陽みたいな、笑顔が見えた。


...やっぱり僕は、イカロスかもしれない。太陽に近づくと、

堕ちて、死んでしまいそうだ。

なのに、近づきたくて、触れたくて。誘惑に理性が負け始める。


「逃がさないよ?

ホレ、いい加減ゲロるが良い!

...私の事、好き?」


うぅん...よし。

「...好き、だよ。努力家で、優しくて、笑顔が綺麗で。

あ...愛」


「ちょっっっと待て?それ以上は、私もお前も恥ずか死ぬからやめろ?

わかったから...。次は私の番、でしょ?」




























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