お手本
なんかもうちょっとさ、言い方あったよねぇ...。
黙々と夕飯の準備をしながら後悔を引き摺る。私、一体どんな顔であの台詞
吐いてたんだろう。羞恥心と口から出てきた言葉の身勝手さに自分で呆れて
泣きたくなりながら、その言葉に身を任せた。助けてって
驚く位に。吐き気を催す位に、濃密に込めながら。
アイツのあの顔は、一体どんな感情だったんだろう。嬉しそうだった。
でもそれと同じくらいに、心底嫌そうな...
「熱っっつ!」...汁物がお玉を握っている手に撥ねた。
「んもーまぁじでアッツい!!」慌てて流水に手をかざして応急処置。
隣で同じく料理中の母さんと様子を見にきた父さんに心配される。
「大丈夫!?もしかして疲れてるの?」「...大丈夫か?」優しい言葉。
それに私が返せるのは、謝罪以外の感情の方が多く籠った言葉。
「ダイジョブダイジョブノープロブレム!」のしかかる罪悪感。
こんな優しい人達に、私なんかが迷惑を掛けてごめんなさい。
「めっずらしいわねぇ...」「...今日は飯食ったらしっかり休めよ。」
「はーい!」本音を吐き出したい、って自分勝手な思考が首をもたげる。
これ以上迷惑掛けてどうする。理性で以って
皆の食器を片付けてから自室に戻って、鍵を掛ける。そうしたら。
鼻で大きく息を吸って、吐く。体の中に残った首やその他悪いモノを吐き出す様に。
「...?」頬を涙が、伝っていた。
止めろ。身近に助けてくれる人がいるのに、誰にも頼らないようにしている癖して。
その上でわざわざ赤の他人に頼った癖して。泣く権利は無い。止めろ。止めろ。
理性で以って、刃を振るう。...鈍った理性では、綺麗に落とせない。
浴槽から、水が溢れる。
私の家は自動で風呂が沸かないので、自分で水量を見ながら調整しなきゃいけない。
私はこれがすごく苦手だ。気がついた時には、よく、溢れている。
両親が見てる時は溢れないんだけどなぁ...どうしてだろうね。
最近は気をつけられるようにはなったが、それでもたまに、溢れてしまう。
「ドライヤーはっ、したっ、筈なんだけどっ、なぁ...。」
枕は何故か、濡れていた。
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