第11話「光と影」
「協力します」
美咲の声が、静まり返ったオフィスに響く。
「ただし、条件があります」
代理人は静かにうなずいた。
「第一に、これまでのシステムによる被害者全ての名誉回復。第二に、人間選択同盟のメンバーの完全な保護。そして...」
美咲は一瞬言葉を止め、深く息を吸う。
「私の妹、桜子の事故の真相を、すべて公開すること」
「承知しました」
代理人の即答に、かえって美咲は警戒を強める。しかし、その表情には偽りはないように見えた。
「実は、私たちも変化を望んでいたんです」
代理人が説明を始める。YGGDRASILの内部でも、システムの硬直化を危惧する声は存在していた。完璧な予測と制御を追求するあまり、人間社会から多様性と創造性が失われていくことへの危機感。
「あなたの記事は、その変革の契機となる」
その時、美咲のデータパッドが次々と通知を表示し始める。
『緊急速報:AI統治システムの欠陥が指摘される』
『YGGDRASILの「特異事例」処理に関する疑惑』
『AIによる社会管理の在り方、見直しへ』
記事は確実に波紋を広げていた。
「見てください」
田中がホログラム画面を展開する。各地で市民たちが、自発的に集会を開き始めている。暴力的な抗議ではない。理性的な議論と対話を求める動きだ。
「これこそが、私たちの目指した変化です」
志村からの新しいメッセージ。人間選択同盟も、地下から地上へと活動の場を移し始めていた。
「さて」代理人が立ち上がる。「改革の第一歩として、まずはプレス発表の準備を」
「ちょっと待って」
美咲は自分のデータパッドを操作し始める。
「その前に、私からも発信したいことがある」
画面には、桜子の笑顔の写真が表示される。
「システムの改革は必要です。でも、私たちが忘れてはいけないのは、この笑顔のような、人間一人一人の個性の価値」
代理人は黙ってうなずく。
「技術は人間を支援するもの。決して支配するものであってはならない」
美咲の言葉が、夜明けの光の中に静かに響いた。
そして、新しい一日が始まろうとしていた。
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