第5話「魔力残業を追え!」
深夜の社内。
「うーん、やっぱりおかしいよね...」
圭介は空っぽのオフィスで、魔力消費量のグラフとにらめっこをしていた。日中の消費量より、夜間の方が多いのだ。
「社長、こんな時間まで」
振り返ると、メリッサが立っていた。
「あ、メリッサさん。これ、見てもらえる?」
「...確かに異常値ですね」
グラフを覗き込むメリッサ。
「でも、当社は24時間営業ですから」
「違うんだ。この魔力の波形、人間...じゃなかった、社員の数に対して多すぎる」
「!」
メリッサの表情が変わる。
その時、廊下から青白い光が漏れてきた。
「あれは...」
覗いてみると、デスクの前で社員たちの魂だけが仕事をしている。肉体は家に帰っているのに、魂が残業しているのだ。
「魂だけ残って仕事してるなんて...まさに現代...じゃなくて、異世界のブラック企業だよ!」
「社長、落ち着いてください」
メリッサが冷静に言う。
「これは当社伝統の『魂抜き残業』です。肉体を休ませながら仕事ができる、画期的なシステム...」
「それって完全に違法じゃない!?」
「異世界に労働基準法はございません」
「作ります!」
「はい?」
「異世界労働基準法!作っちゃいます!」
興奮する圭介。
「社長...まさか本気では」
「本気も本気。だって...」
圭介は幽霊社員たちを見つめる。
「みんな、疲れてるよ。魂まで疲れてる」
「...」
メリッサが黙り込む。
「おい!深夜残業は認められないぞ!」
突如、怒鳴り声が響く。
「ヒッ!」
驚いて振り向く二人。
そこには...満面の笑みを浮かべたレオが立っていた。
「レオ?」
「ふふふ...実は私、"残業撲滅特命チーム"のスパイなんです!」
「そんなチームあったの!?」
「知りませんでした...」
圭介とメリッサが揃って突っ込む。
「前社長が密かに発足させたんですが、誰も活動する暇がなくて...」
「それこそ問題だよ!」
翌日。
「というわけで、明日から魂抜き残業を禁止します」
緊急朝礼での発表に、社員たちがざわめく。
「で、でも、仕事が...」
「納期に間に合いません...」
「大丈夫」
圭介は胸を張る。
「これからは魂を削って働くんじゃなく、知恵を絞って働こう。それが本当の...」
「生産性向上」
メリッサが言葉を継ぐ。
「...ですね、社長」
僅かに微笑むメリッサ。圭介は小さく頷いた。
「よーし!」
レオが突然、獣人特有の尻尾を振り回す。
「残業撲滅特命チーム、ここに正式発足!」
「おい、みんなの前でそれは...」
社内は爆笑の渦に包まれた。異世界の働き方改革は、こうして本格的に動き出したのである。
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