第6話「取締役会の証明」
「取締役会まであと3時間です」
メリッサの声が社長室に響く。
「うう...」
圭介は青ざめていた。
「何を緊張されているんですか。ただの定例会議...」
「定例じゃないでしょ!」
圭介が机から顔を上げる。
「だって議題が『魂抜き残業禁止の是非』だよ!」
「まあ、前例のない提案ですからね」
レオが苦笑する。
「取締役の面々も必死です。特に...」
「魔王商事出身の筆頭取締役、バルザード様が」
メリッサが眉をひそめる。
「猛反対されるでしょう」
「はぁ...」
圭介は深いため息をつく。
「プレゼンの練習するよ。聞いてくれる?」
* * *
取締役会議室。
「では、臨時取締役会を始めます」
重厚な会議室のテーブルを囲むのは、個性的すぎる面々。
まず、巨大な角と真紅の瞳が特徴の筆頭取締役バルザード。
「我が魔王流経営では、魂すら会社の資産」
優雅な銀髪のエルフ取締役ロングレイ。
「当社の伝統を守るべく、50000年の歴史を語らせていただきます」
そして...
「ぐぅ...」
いつの間にか居眠りを始めたドワーフ取締役ガッツ。
「では、社長から議案の説明を」
立ち上がる圭介。その背後でメリッサが資料を準備する。
「あ、あの...」
その時。
「待たれよ」
バルザードが立ち上がる。
「その前に、我が魔王商事の経営実績を...」
「異議あり!」
ロングレイも負けじと立つ。
「その前に当社の歴史を振り返るべく、第一創業期からご説明を...」
「むにゃ...戦闘開始...」
ガッツが寝言を発する。
会議室が混沌に包まれる中、圭介はふと思い出していた。
(そうか...ここは異世界なんだ)
「すみません!」
圭介が声を張り上げる。
「私からひとつ、提案があります」
「なに?」
バルザードが不機嫌そうに睨む。
「この議論、バトルで決めませんか?」
「!?」
メリッサが驚愕の表情を見せる。
「ほう...」
バルザードの目が輝く。
「面白い。我が魔王流経営術と勝負というわけか」
「はい。ただし...」
圭介は意を決して言う。
「武器は、これです」
取り出したのは、一冊のノート。
「これは...」
メリッサが覗き込む。
「社員の方々の声...ですか?」
「ええ。この一週間、みんなの本音を集めてきたんです」
パラパラとページをめくる。
『家族と過ごす時間が欲しい』
『心を休ませたい』
『もっと効率的に働きたい』
「なるほど...」
バルザードが唸る。
「確かに...」
ロングレイも表情を緩める。
「むにゃ...従業員第一...」
ガッツが寝言を漏らす。
「当社の真の資産は、社員一人一人の情熱です」
圭介は力強く言う。
「その情熱を守り、育てる。それこそが、経営者の責務ではないでしょうか」
静寂が流れる。
「...面白い」
バルザードが不敵な笑みを浮かべる。
「若造の割に、やるじゃないか」
「まったく」
ロングレイも微笑む。
「これぞまさに、ニューウェーブ」
「提案を承認する!」
ガッツが突然、目を覚まして叫ぶ。
こうして、魂抜き残業禁止案は全会一致で可決された。
「社長...」
会議室を出る際、メリッサがそっと呟く。
「少し、見直しました」
「えっ?」
「いいえ、なんでも」
彼女は小さく微笑んで、颯爽と歩き去った。
異世界の経営改革は、新たな一歩を踏み出したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます