第3話「伝説の秘書、着任!」



「社長、大変です!」


魔法パワポ事件から一週間後、レオが慌てて社長室に飛び込んできた。


「また何か爆発したの...?」


「いえ、エルフ商業学校を首席卒業した伝説の秘書が、本日付で着任するんです!」


「それは良かっ...」


その時、社長室のドアがゆっくりと開いた。


長い銀髪が煌めく。翡翠色の瞳が凛々しく光る。完璧な姿勢で立つエルフの美女。まるで絵画から抜け出てきたような美しさだった。


「メリッサ・シルヴァリリーと申します。本日より社長秘書として着任いたしました」


凛とした声に、部屋の空気が引き締まる。


「よろしく...」


圭介が声をかけた瞬間、メリッサの手には既に大量の書類が。


「では早速、滞っている業務を片付けましょう。まず、魔法パワポ事故の損害賠償について...」


圭介の機嫌を伺う暇もなく、書類が机の上に積まれていく。


「あの、ちょっと休憩...」


「休憩?」

メリッサの動きが一瞬止まる。

「申し訳ありませんが、現在の当社に休憩は不要かと」


「いや、休憩は必要だよ。前世...じゃなくて、過労は良くないからね」


「過労など、エルフには存在しない概念です」


真剣な表情で言い切るメリッサ。その瞳には、仕事への強い誇りが宿っていた。


「いやいや、エルフだって疲れるでしょう?」


「失礼ですが」

メリッサの声が鋭くなる。

「社長はこの会社を本気で経営するおつもりですか?」


「えっ?」


「前社長の時代から、当社は異世界経済を支える大企業。その社長として、休憩など口にされるとは...」


「いや、だからこそ...」


「では、この第三四半期の魔力収支は?異世界為替の変動は?ドラゴン投資家への配当は?」


次々と繰り出される質問に、圭介は言葉を失う。


「やはり」

メリッサはため息をつく。

「社長には、まだまだ覚悟が足りないようですね」


その言葉を残し、メリッサは優雅に踵を返した。社長室に、重苦しい空気が残る。


「大丈夫ですか、社長?」

レオが心配そうに様子を窺う。


「ああ...」

圭介は机に突っ伏した。

「前世でブラック企業に勤めてた時より、なんか疲れたよ...」


エリート秘書との対立。異世界での企業経営は、新たな局面を迎えようとしていた。

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