第2話「魔法パワポ大作戦」



「この、この数字は...」


社長室で決算書を見つめる圭介の目が点になった。売上高は「∞」(むげん)ゴールド、営業利益は「◇」(まほう)シルバー。意味不明な単位の数字が並ぶ。


「申し訳ございません。前社長は魔法文字での会計管理を好まれていたもので...」


獣人秘書のレオが申し訳なさそうに説明する。


「じゃあ、これを普通の数字に直すとどれくらい...」


「それが、魔法文字を一般通貨に換算できるのは、エルフ会計士の資格が必要でして」


圭介は頭を抱えた。いったいどうやって経営状態を把握すればいいのか。


「とりあえず部長会議を開きましょう。現状を説明してもらいます」


* * *


「本日は緊急部長会議を...」


会議室には異様な面々が集まっていた。角の生えた悪魔の営業部長、眼鏡をかけたゴブリンの経理部長、そして全身鎧に身を包んだドワーフの製造部長。


「では、現状報告を...あれ?」


圭介がパワーポイントを開こうとすると、画面から突如として魔法陣が出現。プロジェクターから虹色の光が溢れ出す。


「社長!それは魔法パワポです!」


レオが慌てて叫ぶ。しかし時すでに遅し。


「フォントサイズ:破!」


画面の文字が巨大化し、会議室の壁を突き破る。


「アニメーション効果:暴走!」


グラフが実体化し、蛇のように這い回り始めた。


「ゴブラッ!危険です!」

経理部長が机の下に潜り込む。


「なんとかしろよ!」

営業部長が角から火を噴く。


「むむ、我が槌で叩き潰すまでじゃ!」

製造部長が戦斧を構える。


「やめてください!備品は経費で落ちません!」


会議室は瞬く間に大混乱。グラフは天井を突き破り、円グラフは床を回転しながら削り取っていく。


「レオ!これを止める方法は!?」


「Alt+F4を三回唱えながら、マウスを時計回りに回すんです!」


必死の思いで呪文を唱える圭介。するとようやく、暴走した魔法パワポは収束していった。


「はぁ...はぁ...」


荒れ果てた会議室で、全員が肩で息をする。


「すみません、経営状態の説明は...また改めて...」


「社長」

レオが申し訳なさそうに耳打ちする。

「実は会議室の修繕費用、今月の予算を超えてしまいまして...」


「はぁ!?」


圭介の悲鳴が、夕暮れの社屋に響き渡った。異世界での企業経営は、今日も波乱の幕開けとなったのだった。

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