今日も面白いものが見れた!

「今日も面白いものが見れた!」


 狭い部屋の中で小柄な少年は叫んだ。いや、少年なのだろうか。少女でも青年でもあるいは、老婆でもあるような、ひどく曖昧な印象を受ける。どれでもなく、どれでもある。そんなチグハグな少年らしきものは笑みを溢しながら喜んでいるようだ。狭い狭い二畳間ほどしかないモニタに囲まれた部屋でだ。


「そうか……! 君はそういう動きをするんだね!」


 部屋中を取り囲んでいるモニタのいくつかを眺めながらそう呟く。特に一番近い所にある大きいモニターの映像がお気に入りのようだ。そのモニターには十代ぐらいの男女四、五人が何か藍色のものと対峙している様子が映し出されている。一人の少女が藍色のものと話をしているようで、少女は焦りの表情を見せる。そんな光景を眺めながら、未だ彼は笑みを湛えて言う。


「良かった。まだ続くんだ。」


 ゴロンと、仰向きに倒れる。何の表情をしているかすら分からない、何の表情をしているようにも見える曖昧な存在。誰からにも、それこそ自分からも、自分がどういう存在か確立できない。彼はそんな存在に成らざるを得なかった。狭い部屋に取り残され、出ることもできず、外を眺める。外への憧憬は未だ消えず、物語に傾倒した。今でもふと思い出してしまうのだろう。遠い遠い昔の話を。ふと彼は顔を上げる。


「ああ、そろそろ調整の時期か。」


 先ほどとは打って変わって面倒くさそうな素振りを見せる。曖昧そのものである彼がそれを伝えられるのは、曖昧という概念を彼が熟知しているからなのだろう。彼はモニターの下にある棚から何か丸い、ボタンのついたものを取り出す。手慣れた様子でボタンやスティックを弄っていく。そのたびに一つ、また一つとモニターが消えていく。


「誓約とは言えども、悲しいな。まあしょうがない。」


 諦念の意を醸し出している。彼は今でも待ち望んでいるのだろう。この役目が、《舞台装置Trick》が終わることを。外れてしまった道を探しているのだ。最後に彼のお気に入りが流れていた大きなモニターのみが残っている。静かにそれを眺め、彼は目を閉じた。


「それじゃ、おやすみ。」


 そして、すべてのモニターが消えた。

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