12.


寝る準備をしていると、コンコンとノック音が聞こえた。


「姫宮さま、入っても?」


その声は小口だ。「いいですよ」と返すと、扉が開かれた。

と、同時に勢いで入ってくる者がいた。大河だ。

その勢いのままベッドに腰かけていた姫宮に抱きついた。


「⋯⋯っ、た、大河⋯⋯」


あまりにもの大河の行動に驚き、しかしどうにか抱き留めると、胸にこれでもかとまだ勢い余ったままの頬を擦り寄せていた。


「今日、ママさまと寝る約束をしていたんですね。いつも以上にお風呂と歯磨きをそれはもう丁寧に洗っていたので何かあるのかと思っていたら」


「かと言って、足はどっかに行きたそうに踏ん張っている感じでしたが」と付け加えて、面白いと笑っていた。

また大河のことをからかうネタが出来たとも言いたげな小口に、困り笑いをした。

そんな間でも、大河は今度は顔を埋め、しがみつき、小口の話など耳にしてない様子だった。


「とにもかくにも、わたしはお邪魔なようなのでこれにて失礼します。大河さまのお気に入りの抱き枕はこちらに置いておきますね」

「あ、はい⋯⋯」


手に持っていたハニワの抱き枕を姫宮らのそばに置いた小口は、「では」と言って、さっさと出て行った。

いつぶりか分からないが、一人で寝ることが楽しみなのだろう。

今日は思う存分一人を満喫して欲しい。

姫宮は心の中で願いつつ、そして、腕の中で静かにいる我が子を見下ろした。


「大河。⋯⋯ひとまず、布団に入ろうか」


二人きりになった途端、どうしようかと思った姫宮はそっと声を掛けた。

すると、ぱっと顔を上げた大河は頷いた。

が、動くことなくただ姫宮のことを見つめていた。

このまま一緒に入りたいということなのだろう。

恐らくそうであろうと思った姫宮は大河を抱っこし、一旦立ち上がった後、布団を捲り、そして共に被った。


「あ、そうだ。さっき小口さんが大河の抱き枕を置いといてくれていたよ」


「はい」と抱き枕を渡す。だが、受け取ったそれを自身の背中側に置き、またしがみついてきた。


今日はよっぽど姫宮のぬくもりを感じていたいようだ。


思わず苦笑を漏らした。

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